三朝温泉を深掘りレビュー!株湯の分析書からたどるラドン泉と850年の物語(鳥取県三朝町)

湯め活びより三朝温泉考察編のアイキャッチ画像

三朝温泉を訪れてみると、ラドンを含む湯だけでなく、分析書の数字や飲泉場の掲示、株湯に残る伝説、山里の食文化まで、気になるものが次々と見つかりました。
長い歴史のなかで大切に守られ、研究されてきた温泉だからこそ、その背景をもう少し知りたくなります。
現地で感じたことを出発点に、公開資料や分析書をたどりながら、「なぜだろう」と思ったことを一つずつ調べてみました。
正解を探すというより、一杯の湯の向こうに広がる三朝の物語を、温泉好きの目線から楽しんでみたいと思います。

三朝温泉で興味深かったこと
  • 混合するとラドンはどう変わる?
    1号泉と混合泉でラドン量が違うことに気づき、その理由が気になりました。
  • 「弱放射能」の境界線はどこ?
    泉質名に付く「弱」の一文字を見て、どこに区分の境目があるのか調べました。
  • 熱い湯とラドンはなぜ共存する?
    高温の源泉にもラドンが含まれることから、地下での湯の成り立ちに注目しました。
  • 「株湯」の株は何を意味する?
    素朴な名前の由来を追ううちに、白狼伝説と三徳山とのつながりが気になりました。
  • とち餅と温泉に関係はある?
    湯上がりに食べたとち餅から、山の温泉地に受け継がれてきた食文化に興味を持ちました。
目次

三朝温泉ってどんなところ? | 4コマ漫画で体験してみる

ゆめにゃん

猫は入れないからフィクションにゃ…

三朝温泉の魅力を詰め込んだ4コマ漫画。浸かる・飲む・吸う体験や風情ある温泉街を猫のゆめにゃんが紹介。

三朝温泉レビューと注目ポイント考察

この記事は、筆者が実際に温泉を訪れた際に感じた「なぜ?」をきっかけに、温泉分析書や公開資料などを調べ、自分なりに考察した内容です。資料から確認できる事実と筆者個人の考察を分けて記載するよう努めていますが、専門家による学術的な見解や結論を示すものではありません。直接的な裏付けを確認できていない仮説や想像については、その旨を明記しています。一人の温泉好きが、分析書や資料を眺めながら考えた「温泉の自由研究」としてお楽しみください。

株湯の混合泉より1号泉のほうがラドンが多いのはなぜ?

株湯さんで湯上がりに飲泉場の掲示板を眺めていて、思わず手が止まりました。浴場の分析書は「株湯1号・2号の混合泉」で、源泉温度49.2℃、ラドン130Bq/kg。ところが飲泉場の「株湯1号泉」は37.9℃とぬるいのに、ラドンは143Bq/kgと少し高いのです。

熱い湯ほど地下深くから来て、成分も濃いのでは――と漠然と思っていたので、この数字は意外でした。そこで気になったのが、ラドンが気体だということです。1号泉と2号泉を混ぜる過程で、一部が空気中へ逃げている可能性はないのでしょうか。

調べてみると、ラドンは水の扱い方によって空気中へ抜けることがあります。WHOの飲料水中の放射性物質に関する資料でも、水中ラドンを測定する際には、曝気や脱気による損失を避けるため、水を低い流速で静かに採取するよう説明されています。また、放射能泉を対象とした研究でも、貯湯槽から配管を通して浴槽へ供給する間に、水中ラドンが減少した例が報告されています。

一方、ラドン222の半減期は約3.82日です。そのため、通常の混合や短時間の貯留であれば、放射性崩壊そのものより、空気との接触による脱気のほうが気になります。ただし、分析書から実際の混合方法や採水地点までは分からないので、「混合したからラドンが減った」とまでは言い切れません。

もう一つ気になったのが温度です。37.9℃の1号泉と別の源泉を単純に混ぜて49.2℃になったと考えるなら、2号泉は49.2℃より高温だった可能性があります。そして2号泉のラドン濃度が1号泉より低ければ、混合によって130Bq/kgになったという説明も成り立ちます。残念ながら2号泉単独の分析書は見つけられなかったので、ここは次回の宿題です。

そもそも三朝温泉では、同じ源泉でもラドン濃度が時期によって変化する例が古くから報告されているようです。143と130Bq/kgの差には、源泉そのものの違い、混合、湯の扱われ方、測定時期など、いくつかの要因が重なっているのかもしれません。

「熱い=ラドンが多い」とは考えられないこと。そして分析書を見るときは、数字だけでなく「どの源泉を、どんな状態で測ったのか」にも目を向けること。一枚の掲示板が、湯めぐりの見方をまた一つ増やしてくれました。

「単純弱放射能温泉」の「弱」はどこで線が引かれる?

株湯さんの泉質名は「単純弱放射能温泉」です。世界屈指のラドン泉と聞いていましたが、「弱」の一文字が付いていることに少し驚きました。

「弱」が付くということは、どこかにその先の境目があるはずです。株湯さんの分析書を見ると、混合泉は9.67マッヘ、飲泉場の1号泉は10.67マッヘ。そこで最初は、「境目は10マッヘ台なのかな」と予想しました。マッヘはラドン量を表す単位として昔から使われ、現在の温泉分析書でもBq(ベクレル)と併記されることがあります。

確認のため、環境省の鉱泉分析法指針(平成26年改訂)を開いてみました。ラドンを1kg中に111Bq、つまり8.25マッヘ以上含むと放射能泉の基準を満たします。さらにラドン量によって、8.25マッヘ以上50マッヘ未満は「弱放射能」、50マッヘ以上は「放射能」と区分されていました。

予想した10マッヘ台はまったく外れで、境目はなんと50マッヘ。株湯さんの混合泉130Bq/kgは、放射能泉の基準となる111Bq/kgを約17%上回る位置にあります。この分析値だけから考えると、ラドンがもう少し少なければ「単純弱放射能温泉」ではなく、「単純温泉」と判定される可能性もあったことになります。もちろん実際の泉質名は正式な温泉分析によって決まるので、これは数字を眺めながらの私なりの想像です。

一方で、三朝温泉には50マッヘを大きく超えるラドン濃度が記録された源泉もありますが、それは次の項目で触れます。同じ温泉地の中に「弱放射能」と「放射能」に分かれる源泉があると知ると、泉質名を見る楽しみも一段増してきます。

宿や共同浴場の分析書で、「含弱放射能」なのか「含放射能」なのか。そんな小さな文字まで比べながら巡ってしまうのも、三朝ならではの湯めぐりの楽しみ方なのかもしれません。

「683.3マッヘ」はどこの源泉で記録されたものなのか

三朝温泉について調べていると、ひときわ目を引く数字があります。三朝温泉公式サイトで紹介されている「683.3マッヘ」という記録です。株湯さんの分析書にあった約10マッヘと比べると、その差は60倍以上。その源泉はどれを指しているのでしょうか。そう思って、源泉名や測定された時期を探してみることにしました。

ところが、これがなかなか見つかりません。日本原子力研究開発機構の資料にも、三朝温泉では最高683.3マッヘ(9,361Bq/L)という値が紹介されています。しかし、私が確認した範囲では、どの源泉で、いつ測定されたものなのかまでは分かりませんでした。

資料を追いかけてみても、結局「683.3マッヘはいつ、どの源泉で測られたのか」という最初の興味には答えを見つけられませんでしたが、今回調べてみて面白かったのは、ラドン濃度を一つの固定された数字として見るだけでは分からない世界があったことです。「何マッヘだったのか」だけでなく、「どの源泉を、いつ、どんな状態で測ったのか」。683.3という数字を入口に資料を追ったことで、そんなところまで気になるようになりました。

答えを見つけるつもりで調べ始めたのに、最後に残ったのは新しい興味。いつか古い資料の中で683.3マッヘの測定記録に出会えるかもしれません。これは三朝温泉を再訪するときまでの宿題にしておこうと思いました。

なぜ三朝にはラドンを含む「熱い湯」が湧くのか

これまで巡ったラジウム泉の多くは、加温が必要なぬるい湯や冷鉱泉でした。ところが三朝は、株湯さんの混合泉で49.2℃。過去の資料を見ると、さらに高温の源泉も記録されています。ラドンを多く含む湯と高い泉温が両立していることが不思議でした。

最初は、地下の熱源によって温められた湯と一緒にラドンも運ばれてくるのだろうか、と単純に考えました。ラドンはラジウムが壊変して生じる気体なので、地下にはその供給源となる岩石や地層があるはずだとも予想しました。

先ほどの総説「三朝温泉におけるラドン研究の100年」を読み進めると、三朝の地下には「小鴨型花崗岩」が広く分布し、基盤をつくっているとあります。この花崗岩はラジウム含有量が多いとされ、三徳川沿いではその上に約14mの沖積層が堆積。周辺には大小多くの断層が推定され、温泉水は花崗岩の割れ目や、花崗岩と安山岩との境目などから湧いていると説明されています。

さらに興味深かったのが、熱とラドンの由来を分けて考える「ラドン地下水」の仮説です。同じ総説では、三朝の温泉水の大部分は、地中へ浸透した雨水が地下で温められて再び上昇する循環水と考えられています。一方、マグマ由来の揮発成分にはラドンがそれほど多くないため、上昇する循環水にラドンを多く含む地下水が混ざるのではないか、という考え方が示されていました。

実際、三朝の源泉では、湯に含まれるラドン量が、その湯に含まれるラジウムから単純に計算される量を大きく上回る例が確認されています。そこで、どこか別の場所で生まれたラドンを多く含む地下水が途中で加わっているのではないか、と考えられているようです。ただし総説にも、この「ラドン地下水」の存在そのものはまだ証明されていないと書かれています。

どうやら「地下の熱源がラドンも一緒に運んでくる」と考えるだけでは、三朝の湯は説明しきれないようです。地下で温められた循環水と、ラドンを多く含む地下水。それらが上昇する途中で出会っているのだとすれば、高温と高いラドン濃度が両立する理由も少しイメージしやすくなります。

この総説では、34℃以上でラドンを多く含む温泉として、三朝のほかオーストリアのバド・ガスタイン、イタリアのラッコアメノ、ギリシャのイカリアが挙げられていました。三朝で「熱いラドン泉」に浸かれること自体が、思っていた以上に珍しい組み合わせなのかもしれないと思いました。

「単純温泉」なのに成分しっかり?株湯さんの0.9g/kgを読み解く

株湯さんの湯は、私が「単純温泉」という言葉から想像していたより、輪郭がはっきりしていました。硫黄のような強い香りはなく、それでいて湯に触れると何かが溶け込んでいるような存在感があります。飲泉場で口に含むと、ほのかな塩気とまろやかな印象もありました。

分析書を見ると、溶存物質は0.888g/kg。日本温泉協会の「温泉分析書の見方」によると、単純温泉は溶存物質が1kg中1,000mg未満で、泉温25℃以上のものです。株湯さんはその境目まであと0.112g/kgなので、「もう少し濃ければ泉質名も変わっていたのかな」と気になりました。

成分の割合を見るときに使われるのが「ミリバル%」です。これは成分の重さそのものではなく、イオンが持つ電気量の割合で比べる方法です。株湯さんの分析値から計算してみると、陽イオンではナトリウムが約88.5%。陰イオンでは塩化物イオンが約49.8%、炭酸水素イオンが約36.3%、硫酸イオンが約11.8%になりました。

環境省の鉱泉分析法指針では、塩類泉の泉質名には20mval%以上の成分を多い順に記載します。もし現在と同じイオン比率のまま溶存物質だけが1g/kgを超えていたなら、「ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉」が基本となり、ラドン量も現在と同程度なら「含弱放射能-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉」のような名前になっていた可能性があります。

さらに、総説「三朝温泉におけるラドン研究の100年」には、三朝の主要成分がどのように取り込まれるのかというモデルも紹介されていました。深く浸透した循環水が地下で温められ、上昇する途中で岩石と反応して塩化物イオンや硫酸イオンを取り込みます。一方、地下深部で生じた二酸化炭素は割れ目を通って上昇し、浅い温泉水に溶けて炭酸水素イオンとなる。そして、それらがさまざまな割合で混ざることで、三朝の源泉ごとの違いが生まれると考えられています。

同じ総説では、三朝の源泉は陽イオンの70~80mval%をナトリウムが占めるものが多いとも説明されています。株湯さんはそれをさらに上回る約88.5%。飲んだときに感じたわずかな塩気を思い返すと、塩化物イオンや炭酸水素イオンの数字まで急に身近に見えてきました。

メタけい酸も67.3mg/kg含まれています。ただし、特定の成分だけで湯ざわりや味を決めつけることはできません。それでも「単純弱放射能温泉」という短い泉質名の奥に、塩化物、炭酸水素、硫酸、そしてラドンまで重なっている。分析書を眺めていると、二つの水の流れが出会って今の株湯さんになっているのかもしれない、と想像が膨らみました。

飲泉場の「1日350mLまで」はどこから来た数字?

株湯さんの飲泉場の掲示板には、「この温泉はふっ素を含むため、1回100~150mL、1日350mLまで」と書かれていました。ほかの飲泉場でよく見る「1日およそ200~500mL」とは違う、妙に具体的な数字です。

分析書を見ると、ふっ化物イオンは4.5mg/kg。この量から何かの計算式で上限が決まっているのでは、と想像しました。総ひ素も0.13mg/kg含まれているので、どの成分が350mLという数字を決めているのか気になります。

調べてみると、環境省の温泉利用基準に関する通知に答えがありました。ふっ素を含む温泉の1日当たりの飲用量は、「1.6÷A×1,000(mL)」で算出します。Aは温泉1kg中に含まれるふっ素の重量です。株湯1号泉の4.5mg/kgを当てはめると、1.6÷4.5×1,000≒356mL。掲示されていた「1日350mLまで」とほぼ一致しました。

さらに同じ通知では、算出された飲用量が150mL以上500mL未満の場合、「1回100~150mL程度」としたうえで、1日の上限を具体的に示すことになっています。350mLという一見細かな数字は、分析値から計算されたものだったわけです。

では、総ひ素はどうでしょう。環境省の算出方法では、ひ素の場合は「0.1÷A×1,000(mL)」です。1号泉の0.13mg/kgを当てはめると約769mL。算出値が500mL以上の場合は、その成分による具体的な上限値を明示する必要はないため、1号泉ではふっ素のほうが飲用量を決める要因になっていると読み取れます。

ここで、浴場側の混合泉も気になりました。こちらは飲泉用として掲示されている湯ではないので単純な比較はできませんが、試しに同じ式へ分析値を入れてみると、ふっ化物イオン4.6mg/kgなら約348mL、総ひ素0.19mg/kgなら約526mLになります。ひ素は500mLをわずかに上回り、ふっ素は350mL前後。同じ株湯さんでも、源泉の組み合わせによって計算結果が少し変わることが分かります。

「1日350mL」という数字を見たときは、ずいぶん細かな決まりだと思いました。ところが分析書と照らし合わせてみると、その数字にはきちんと計算上の根拠がありました。飲泉場の注意書きも、分析書の続きを読んでいるように見えてきました。

もちろん、実際に飲泉するときは自分で計算した量ではなく、現地に掲示された飲用方法や注意事項に従うのが大前提です。

抜けていくラドンを「吸う」という発想

三朝のあちこちで「浸かってよし、飲んでよし、吸ってよし」という言葉を見かけました。浸かる・飲むはわかりますが、温泉を「吸う」とはどういうことなのか、ずっと気になっていました。

1つ目の項目で、ラドンは温泉水から空気中へ移りやすく、加温や撹拌などによっても失われやすいことを知りました。だとすれば、熱い源泉から立ちのぼる湯気の周辺には、水から移ったラドンも含まれているはずです。それを熱気浴室という空間で利用しているのではないか、と考えました。

調べてみると、三朝温泉公式の天然ラドン熱氣浴泉「すーはー温泉」さんでは、温泉熱を利用した室温32~42℃、湿度約90%の熱気浴室にラドンを含む高湿度の空気が満ちる仕組みとして紹介されています。施設名も、温泉を「吸って吐く」というイメージから「すーはー温泉」と名付けられたそうです。

さらに、全国観光資源台帳の三朝温泉の解説を読むと、現在の地下熱気浴室は、もともと岡山大学の温泉療法施設として使われていた浴室を活用したものだとわかりました。三朝町の資料にも、この場所では長く熱気浴が行われ、その後、現在の施設へ受け継がれた経緯が紹介されています。

宿にも同じような楽しみ方があります。木屋旅館さんの「穴ぐらの湯」は、高温の自家源泉を利用した低温多湿のミストサウナで、三朝ではこうした温泉の蒸気を楽しむ方法を「ラドン熱気浴」と呼んでいます。

湯船では、温泉水に溶けていたラドンが空気中へ移っていきます。普通なら「抜けてしまう」と考えてしまいますが、三朝ではその性質そのものを、熱気浴という別の温泉体験に生かしてきたわけです。浸かる、飲むだけでなく、気体になったラドンまで温泉文化の一部にしている。その発想が面白く感じました。

公式サイトなどでは「ホルミシス効果」についても紹介されていますが、その評価は医学の領域なので、ここでは触れません。それでも、ラドンが気体であることを逆手に取り、「吸う温泉」という楽しみ方にまで広げてきた三朝の温泉文化には、長くラドン泉と向き合ってきた土地ならではの個性を感じます。

予約制なので、次に三朝を訪れるときは、今度こそ「浸かる・飲む・吸う」の三つをそろえて体験してみたいと思いました。

温泉街にキュリー夫人像があるのはなぜ?「世界屈指」と「世界第2位」

温泉街を歩いていると、キュリー夫人の像が立つ広場に出会いました。日本の山あいの温泉地にキュリー夫人とは、なかなか意外な組み合わせです。

もしかしてキュリー夫人自身が三朝の湯を調べたことがあるのだろうか、と考えました。あるいは、三朝のラジウム泉が世界的に知られるようになったことで、何か直接の交流が生まれたのかもしれません。

調べてみると、像はそうした訪問を記念したものではなく、ラジウムを発見したキュリー夫妻の功績をたたえるものとして設けられていました。三朝温泉公式のキュリーコースによると、キュリー広場には1959年建立のキュリー夫人像があり、現在もキュリー祭では献花が行われています。温泉街の入口側にあるキュリー公園には、夫ピエールとマリーの夫妻像も設置されています。

では、なぜ三朝でそこまでキュリー夫妻が大切にされているのでしょうか。その背景を追うと、三朝のラドン研究の歴史につながりました。

総説「三朝温泉におけるラドン研究の100年」によると、1913~1915年に内務省衛生試験所が全国600以上の温鉱泉を調査し、三朝では1914年2月と3月に測定が行われました。その結果は1916年の官報に掲載され、三朝では泉温71℃、ラドン142.1マッヘという源泉が報告されています。この値は、発表当時「世界第2位」のラドン含有量だったとされています。

ここで少し気になったのが、現在の観光案内では三朝が「世界屈指のラドン泉」と紹介されていることです。三朝温泉公式サイトも「世界屈指」と表現しており、1916年当時の「世界第2位」と矛盾するものではありません。前者は現在の温泉地としての特徴を表す言葉、後者は特定の時代・測定結果に基づく順位だった、と考えると整理しやすそうです。

三朝ではその後も温泉研究が続きました。岡山大学の沿革を見ると、1939年に岡山医科大学三朝温泉療養所が設置され、1943年には「放射能泉研究所」へ改称されています。のちに研究施設や医療施設として長く活動し、岡山大学病院三朝医療センターは2016年に閉院しました。

現在の「すーはー温泉」でも、かつて岡山大学の施設として使われていた地下浴室が熱気浴室として活用されています。キュリー夫人の像を入口に調べてみると、単なる観光モニュメントではなく、三朝が100年以上にわたってラドンを測り、研究してきた歴史へとつながっていました。

温泉街の中にキュリー夫人が立っている理由。それは、三朝が昔から「珍しい湯」として親しまれてきただけでなく、湯を数字で測り、科学の対象として見つめてきた土地だからなのかもしれません。

「株湯」の株とは?白狼伝説と三徳山がつなぐ850年

「株湯」という名前を初めて見たとき、「株って何のことだろう?」と思いました。温泉街の中心から少し離れた住宅街にあり、観光施設というより、今も地元の暮らしの中にある湯という雰囲気だったのも印象に残っています。

もしかしたら木の根株のことで、その根元から湯が湧いていたのかな、と想像しました。だとすれば、自然に湯が現れていた場所だからこそ、三朝温泉の始まりになったのかもしれません。

調べてみると、その想像はかなり近いものでした。文化庁の日本遺産ポータルにある「株湯(三朝温泉)」の解説によると、平安時代、源義朝の家来・大久保左馬之祐が三徳山へ参る途中で年老いた白狼を助け、その夜、妙見大菩薩から湯の湧く場所を教えられたと伝わります。示された場所には一本の古い楠があり、その根元から温泉が湧いていたことから「株湯」と呼ばれるようになったそうです。

さらに興味深いのが、株湯と三徳山との結び付きです。日本遺産「六根清浄と六感治癒の地」には、株湯に祀られていた神を誤って湯の中へ落とした後、「祟りの湯」と恐れられたという伝承も残されています。その後、悪霊を三徳山で鎮め、薬師如来を三朝温泉の守護仏として祀ったという物語まで続いていました。温泉の発見だけでなく、その後の伝承まで三徳山とつながっていたわけです。

同じ日本遺産のストーリーでは、三徳山で「六根(眼・耳・鼻・舌・身・意)」を清め、三朝温泉では「六感(観・聴・香・味・触・心)」を味わう「六根清浄と六感治癒」という物語が組み立てられています。現在の観光地としては別々に見える三徳山と三朝温泉ですが、もともとは参詣という一つの旅の中で結ばれていたことが分かります。

そして株湯は、伝説だけでなく近代の研究にも登場します。1952年から1953年に行われた三朝温泉のラドン調査では、株湯を含む約30の源泉を一年間にわたって測定していました。調査では、夏にラドン濃度が高くなる源泉、低くなる源泉、ほとんど変わらない源泉など、場所によって異なる変化が確認されています。

850年以上前の白狼伝説に登場する湯が、20世紀になると今度は研究者によって継続的に測定されている。その時間の重なりが、私には何とも面白く感じられました。

「株湯」という素朴な名前を調べ始めただけなのに、楠の根元から白狼伝説、三徳山信仰、そして近代の温泉研究まで話がつながっていく。三朝温泉の元湯と呼ばれる場所には、湯だけではなく850年以上の物語まで湧き続けているようでした。

湯上がりのとち餅から考える、山の湯治場の食

株湯さんで温まった後、近くの和菓子店・松之屋さんでとち餅を買いました。薄い餅の中にあんが入っていて、ほのかな香ばしさと、栃の実らしいわずかな渋みが後を引きます。三朝の宿の食事や三徳山の茶屋でも、とち餅はあちこちで見かけました。

栃の実はアクが強く、食べられるようにするには手間のかかるアク抜きが必要だと聞いたことがあります。水や熱湯を大量に使うのなら、三朝ではもしかして温泉の湯も利用していたのではないか。そんな温泉地ならではの知恵があったら面白いな、とまた勝手な想像を膨らませました。

農林水産省「栃餅(鳥取県)」を読んでみると、三朝町は栃餅の主な伝承地域の一つとして紹介されていますが、工程に温泉は登場しません。栃の実に熱湯をかけて膨らませ、皮をむき、谷川の流れに5~6日さらし、その後さらに熱湯と木灰を使ってアクを抜いていきます。半月以上かかることもある、かなり手間のかかる仕事でした。

温泉を使っていたのでは、という予想は外れました。考えてみれば、株湯さんのpHは6.9~7.3でほぼ中性です。一方、伝統的な栃の実のアク抜きでは木灰が使われています。三朝のとち餅を支えてきたのは温泉そのものというより、山の谷川の水や木灰を使いこなす暮らしの知恵だったようです。

さらに調べていくと、とち餅は三朝の信仰や年中行事にも入り込んでいました。三徳山三佛寺の公式サイトによると、毎月18日に行われる例護摩では月ごとに異なる粥が振る舞われ、11月18日は「とち餅粥」。大晦日の除夜の鐘では「とち餅ぜんざい」の接待も行われています。

三朝町には、正月の小豆雑煮に栃餅を入れて食べる習慣も伝わっています。農林水産省の資料では、昔、米がほとんどとれなかった山村で栃の実は貴重な食べ物だったと紹介されていました。現在では家庭で一からアク抜きをする機会は減っているものの、栃餅という食文化そのものは今も受け継がれています。

「温泉を使ってアク抜きしていたのでは?」という予想から調べ始めたのに、見えてきたのは温泉とは別の山の暮らしでした。谷川の水、山の木から得られる灰、手間を惜しまないアク抜き。そして三徳山の行事や正月料理へと続いていくとち餅。

湯上がりに何気なく食べた一個のお菓子でしたが、その向こうには、山で得られるものを工夫して食べてきた三朝の暮らしがありました。温泉だけを見ていたつもりが、最後はその土地の食文化まで気になってしまう。これもまた、温泉旅の面白さなのだと思いました。

ゆめにゃん

湯に浸かり、数字を眺め、古い物語に思いを馳せる。
次の休みは、三朝温泉で「一杯の湯の向こう側」を探す旅に出かけませんか?

世界屈指のラドン泉

三朝温泉を象徴するのが、天然のラドンを含む放射能泉です。源泉ごとにラドン量や泉温、成分構成が異なり、分析書を見比べるほど一つの温泉地の中にある多様性が見えてきます。

数字で楽しむ単純放射能泉

「単純」と付く泉質名でも、分析書を開けばナトリウムや塩化物、炭酸水素イオンなどさまざまな数字が並びます。ラドン量だけでなく、溶存物質やpHまで眺めたくなるのが三朝の面白さです。

三朝温泉発祥の湯・株湯

850年以上の歴史を伝える三朝温泉で、元湯として知られる共同浴場が株湯です。楠の根元から湯が湧いたという白狼伝説が残り、現在も入浴施設と飲泉場が並ぶ、温泉地の原点を感じさせる場所です。

飲泉と熱気浴の温泉文化

湯船だけでなく、飲泉場やラドン熱気浴といった温泉との接し方が残るのも三朝ならでは。気体であるラドンの性質にも目を向けると、「浸かる」だけでは終わらない独特の温泉文化が見えてきます。

分析書から広がる湯めぐり

ラドン量、泉温、pH、溶存物質――三朝では源泉ごとの数字を追うだけでも興味が尽きません。同じ温泉地だから「似たようなもんだろ」と思いきや、分析書を比べるほど違いを探したくなる温泉地です。

温泉マニアあるある! – 三朝温泉考察編

ゆめにゃん

マニアの人はこうなっちゃう…かも!?

無色透明なのに分析書の前から動かない

三朝の湯は見た目だけなら無色透明で、香りも比較的穏やか。ところがマニアは浴槽より先に分析書を発見し、「ラドン130Bq/kg……溶存物質0.888g/kg……」と急に無言になります。友達が「早く入ろうよ」と呼んでも、「ちょっと待って、あと0.112!」。何が惜しいのか本人にしか分かりません。

「弱」の一文字に異常に食いつく

分析書に「単純弱放射能温泉」と書かれていると、「世界屈指なのに“弱”なんだ?」と立ち止まるマニア。「弱い温泉ってこと?」と聞かれれば、「違う違う!これはラドン量による泉質名の区分で……」と突然講義開始。友達は後悔します。温泉マニアに軽い気持ちで「弱って何?」と聞いてはいけません。

マッヘという単位だけでテンションが上がる

「ラドン143Bq/kg」と聞いても普通の人は「へぇ」で終わります。しかし「10.6マッヘ」と併記されていると、マニアだけ目の色が変わります。「マッヘって響き、いいよねぇ……」。友達が「何が?」と聞いても説明できません。古い単位が残っているだけでロマンを感じられる、便利な生き物です。

源泉温度とラドン量を勝手に比較する

株湯の飲泉場と浴場で数字が違うことに気づくと、「こっちは37.9℃で143Bq/kg、混合泉は49.2℃で130Bq/kgか……」と腕を組みます。友達には誤差にしか見えませんが、本人にとっては一大事件。「混合?配湯?それとも源泉そのもの?」。もう入浴どころではありません。

飲泉場で350mLの理由まで考え始める

株湯の飲泉場で「1日350mLまで」という掲示を見つけると、普通なら量を守って飲んで終了。しかしマニアは「なぜ350? 300でも400でもなく?」と分析書を確認し始めます。ふっ化物イオンの数字まで眺めて納得すると満足そうに一口。飲泉場なのに、味より計算式のほうが気になっています。※飲泉は現地の掲示に従いましょう

「吸う温泉」という言葉に食いつきすぎる

「浸かる」「飲む」までは分かる。でも三朝には「吸う」という楽しみ方まであると知った瞬間、マニアのアンテナが反応します。「ラドンは気体だから……なるほど!」と熱気浴の仕組みに興味津々。友達は温泉旅行に来たはずなのに、気づけば気体の話を聞かされています。

株湯で白狼を探し始める

三朝温泉発祥の地と伝わる株湯に来れば、マニアの脳内には当然のように白狼が登場。「このあたりに楠があって、白狼を助けたことから……」と850年以上前へタイムスリップします。友達が「狼はいないよ」と現代へ戻そうとしても、「分かってるよ、伝説の話!」。湯口から歴史まで全部が観察対象です。

キュリー夫人を見て温泉研究史へ脱線する

温泉街でキュリー夫人の像を見つければ、「なぜ鳥取にキュリー夫人?」で終われないのがマニアです。三朝のラドン測定や研究の歴史を調べ始め、「1914年にはもう測ってたのか……」と感動。友達が写真を撮り終えても、本人だけスマホで資料を読んでいます。温泉旅行がいつの間にか自由研究です。

ラドン222で大当たりを連想される

飲泉場で源泉を注ぎながら、「ウラン238が何段階もの放射性崩壊を経てラジウム226になって、それがα崩壊してラドン222になるんだよね」と突然知識を披露するマニア。友達には難しい話がほとんど残らず、「待って、222って数字そろってるじゃん!」となぜか大盛り上がり。本人は「いや、そういう話じゃ……」と困惑しますが、時すでに遅し。まわりから”CR温泉マニア”とあだ名されてしまうのです。

管理人

管理人いじりですね…
そう呼ばれるのも悪くない!

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この記事を書いた人

温泉巡り歴15年。
トロトロのお湯と硫黄の香りが大好物。
なのに他の泉質にもすぐハマってしまう。
休日は山奥の秘湯へ直行。
そして、猫が好き。

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