まつだい芝峠温泉を深掘りレビュー! 2つの源泉と泉質の謎をたどる(新潟県十日町市)

湯め活びよりまつだい芝峠温泉考察編アイキャッチ画像

夜には満天の星、朝には山々を包む雲海。まつだい芝峠温泉で出会った景色は、今も忘れられません。
でも、私の興味を引いたのは、その絶景だけではありませんでした。
内湯と露天で異なる二つの源泉、塩辛い湯に秘められた成分、そして山深い土地の地下に眠る歴史。
この温泉は、どのように生まれ、どのように守られてきたのでしょうか。
現地で感じた小さな疑問を手がかりに、温泉分析書や公開資料をたどりながら、その理由を自分なりに探してみました。

まつだい芝峠温泉で興味深かったこと
  • 内湯と露天で異なる二つの源泉
    温度も湧出量も違う二つの源泉。近くで湧くのに、なぜこんな違いがあるのでしょうか。
  • 塩辛い湯に隠された成分の不思議
    強い塩味なのに等張性。さらに鉄やヨウ化物イオンの数字にも、気になる発見がありました。
  • 豪雪の山奥に眠る太古の海の記憶
    雪深い土地の塩辛い温泉。その水はどこから来たのか、地下の成り立ちが気になりました。
  • 泥火山と温泉をつなぐ大地のしわ
    近くの泥火山と同じ向斜軸にあるという温泉。地下にはどんなつながりがあるのでしょうか。
  • 分析書から見えてきた温泉の歩み
    源泉の湧出量や掘削時期、湯使いの記録。数字の向こうにある歴史をたどってみました。
目次

まつだい芝峠温泉ってどんなところ? | 4コマ漫画で体験してみる

ゆめにゃん

猫は入れないからフィクションにゃ…

まつだい芝峠温泉の魅力を詰め込んだ4コマ漫画。2本の源泉や雲海、周辺の郷土グルメと棚田を紹介。

まつだい芝峠温泉レビューと注目ポイント考察

この記事は、筆者が実際に温泉を訪れた際に感じた「なぜ?」をきっかけに、温泉分析書や公開資料などを調べ、自分なりに考察した内容です。資料から確認できる事実と筆者個人の考察を分けて記載するよう努めていますが、専門家による学術的な見解や結論を示すものではありません。直接的な裏付けを確認できていない仮説や想像については、その旨を明記しています。一人の温泉好きが、分析書や資料を眺めながら考えた「温泉の自由研究」としてお楽しみください。

露天と内湯で分析表が2枚、二つの源泉を行き来する湯めぐり

脱衣所で最初に目に入ったのは、壁に並んだ2枚の温泉分析表でした。左が「露天風呂」、右が「内湯」です。よく見ると源泉名からして別物で、露天は「芝峠温泉2号源泉」、内湯は「芝峠温泉1号源泉」と書かれています。

露天は源泉温度47.9℃、湧出量40L/分。内湯は22.7℃、10L/分です。2つの源泉があることは事前に調べて知っていたのですが、まずはこの源泉温度の差に驚きました。

調べてみると、ゆこゆこの温泉ガイドには、2005年3月に2本目の源泉を掘ってリニューアルオープンしたこと、内湯には従来の源泉、露天には新しく湧出した源泉が使われていることが紹介されていました。

分析表の湧出地を見比べると、2号源泉が蓬平797番地7、1号源泉が798番地です。番地はほぼお隣なのに、源泉温度は約25℃も違います。掘った深さや、湯を取り出している地層が違うのかもしれません。泉温による分類も露天は「高温泉」、内湯は「冷鉱泉」と分かれています。一つの宿で性格の違う2本の源泉を入り比べられるのは、分析書好きにはたまらない贅沢でした。

比較項目露天風呂(2号源泉)内湯(1号源泉)
源泉名芝峠温泉2号源泉芝峠温泉1号源泉
分析年月日2013年10月10日2009年11月17日
泉質ナトリウム-塩化物温泉ナトリウム-塩化物冷鉱泉
源泉温度47.9℃22.7℃
pH7.87.6
浸透圧による分類等張性等張性
湧出量40L/分10L/分
溶存物質(ガス性を除く)8,315mg/kg8,190mg/kg
成分総計8,315mg/kg8,214mg/kg
ナトリウムイオン(Na⁺)2,799mg/kg2,875mg/kg
カルシウムイオン(Ca²⁺)357.9mg/kg96.8mg/kg
塩化物イオン(Cl⁻)4,820mg/kg4,427mg/kg
炭酸水素イオン(HCO₃⁻)53.7mg/kg573.6mg/kg
鉄(Ⅱ)イオン(Fe²⁺)0.1mg/kg18.0mg/kg
ヨウ化物イオン(I⁻)8.3mg/kg11.2mg/kg
メタホウ酸(HBO₂)123.8mg/kg68.7mg/kg
遊離二酸化炭素(CO₂)0.0mg/kg24.2mg/kg
分析書記載の特徴淡黄色澄明・強塩味・微油臭淡黄色澄明・中程度の塩味・微油臭

※数値は当時掲示されていた温泉分析書に基づきます。分析年月日が異なるため、現在の成分や状態を示すものではありません。また、源泉温度は浴槽内の湯温とは異なります。

「強塩味」なのに等張性?舌の感覚と数字のギャップを考える

露天に肩まで浸かり、跳ねたお湯が唇に触れると、しっかりしょっぱく感じました(※意図的に味わったわけではありません)。分析表の知覚的試験の欄にも、露天は「強塩味」と書かれていました。これだけ塩辛いなら高張性の濃い湯なのでは、と想像しながら泉質名を見ると「弱アルカリ性・等張性・高温泉」。予想が外れました。

「張性」について改めて調べてみました。温泉では、お湯1kgに溶けている成分の量などを目安に分類します。日本温泉協会の解説によると、溶存物質が8,000mg/kg未満なら低張性、8,000mg/kg以上10,000mg/kg未満なら等張性、10,000mg/kg以上なら高張性です。芝峠の露天は8,315mg/kgなので、等張性の範囲に入ります。

では、なぜ強い塩味を感じるのでしょうか。内訳を見ると、ナトリウムイオン2,799mgと塩化物イオン4,820mgだけで、溶存物質の大部分を占めています。成分総量だけでなく、どんな成分が多いかによっても味の印象は変わるのかもしれません。芝峠の湯は、塩味に関わる成分が豊富だからこそ、しょっぱさがはっきり感じられたのではないかと考えました。

さらに調べると、生理食塩水は約0.9%の食塩水で、1kgあたりの食塩はおよそ9gです。芝峠の8.3g/kgと数字が近いことにも興味をひかれました。ただし、芝峠の数値は食塩だけでなく、さまざまな成分を合わせた量です。単純に同じ濃さとは言えません。それでも、強い塩味を感じたお湯が「等張性」に分類されることに、温泉の数字の奥深さを感じました。

塩化物98%の露天と炭酸水素を含む内湯、成分バランスの違い

泉質名だけを見ると、露天も内湯も「ナトリウム-塩化物」で同じグループです。ところが、分析表の「ミリバル%」の列を見比べると、2本の個性がはっきり分かれていました。

ミリバル%は、成分の量を化学的な当量に換算し、陽イオン・陰イオンそれぞれの中での割合を示したものです。露天の陰イオンは塩化物イオンが98.25%で、ほかの陰イオンはごくわずか。一方、内湯は塩化物イオンが92.59%で、炭酸水素イオン(573.6mg/kg)が6.97%を占めています。内湯には遊離二酸化炭素も24.2mg/kg含まれていて、露天の0.0mg/kgとは対照的です。

陽イオンにも違いがあります。カルシウムイオンは露天が357.9mg/kg、内湯が96.8mg/kgで、露天は約3.7倍です。

これだけ違うのに泉質名は同じ。改めて調べてみると、環境省の鉱泉分析法指針に沿った泉質名の付け方では、ミリバル%が20%以上の成分が名前に入ります。露天のカルシウムイオン(12.67%)も、内湯の炭酸水素イオン(6.97%)も、20%には届いていません。

泉質名には表れない差を知ると、実際に浸かったときの湯ざわりも改めて比べたくなります。成分の違いがそのまま肌の感触の違いにつながるとは限りませんが、こうした「名前に出ない個性」を探すのが、分析書を読む醍醐味だと思いました。

比較項目露天風呂(2号源泉)内湯(1号源泉)
塩化物イオン(Cl⁻)4,820mg/kg4,427mg/kg
塩化物イオンの構成比98.25%92.59%
炭酸水素イオン(HCO₃⁻)53.7mg/kg573.6mg/kg
炭酸水素イオンの構成比約1.0%6.97%
カルシウムイオン(Ca²⁺)357.9mg/kg96.8mg/kg
ナトリウムイオン(Na⁺)2,799mg/kg2,875mg/kg
泉質ナトリウム-塩化物温泉ナトリウム-塩化物冷鉱泉

※構成比は陰イオン全体に対するミリバル%(mval%)。mg/kgの重量比とは異なります。露天の炭酸水素イオン構成比「約1.0%」は、表示値からの概算です。数値は露天2013年、内湯2009年の温泉分析書に基づきます。

内湯のヨウ化物イオン11.2mg、現行基準で読み返す楽しみ

入浴後、内湯の分析表を見返していて、陰イオンの欄の「ヨウ化物イオン11.2mg/kg」に目が留まりました。ヨウ素は海藻にも多く含まれる、海と縁の深い成分です。たしか10mgが何かの境目だったはず、と記憶をたどると、2014年の基準改訂を思い出しました。

調べてみると、環境省の通知によって、平成26年7月1日付で「鉱泉分析法指針(平成26年改訂)」が定められています。福井県の療養泉に関する資料でも、平成26年7月改訂の基準として、よう化物イオン10mg/kg以上が挙げられています。

内湯の分析は平成21年(2009年)で、改訂より前に行われたものです。掲示された泉質名は当時の分析書に基づくものですが、現在の基準に当てはめて読むと、よう化物イオンが「含よう素泉」の基準に達していることが分かりました。

一方、露天は8.3mg/kgで、10mg/kgにわずかに届きません。臭化物イオンは露天22.0mg/kg、内湯19.7mg/kgと、どちらにも含まれています。ヨウ化物イオンも臭化物イオンも海水に含まれる成分なので、芝峠の湯にも大昔の海の名残があるのでは、と想像が膨らみました。分析年を確かめながら、古い分析表を「今の目」で読み直すのは、温泉好きならではの楽しみ方です。

比較項目露天風呂(2号源泉)内湯(1号源泉)
分析年月日2013年10月10日2009年11月17日
ヨウ化物イオン(I⁻)8.3mg/kg11.2mg/kg
含よう素泉の現行数値基準10mg/kg以上10mg/kg以上
基準値との差1.7mg/kg下回る1.2mg/kg上回る
当時の泉質名ナトリウム-塩化物温泉ナトリウム-塩化物冷鉱泉

※含よう素泉は、2014年の鉱泉分析法指針改訂で追加された療養泉の分類です。表は過去の分析値を現行の数値基準と比較したもので、現在の泉質名や成分を示すものではありません。

鉄(Ⅱ)イオン18.0mg、あと少しで含鉄の内湯と淡黄色の謎

分析表の知覚的試験には、露天・内湯ともに「淡黄色澄明」とあります。黄色い湯といえば鉄分、と思いながら陽イオンの欄を見ると、内湯の鉄(Ⅱ)イオンは18.0mg/kgでした。

療養泉の基準では、総鉄イオン(鉄(Ⅱ)と鉄(Ⅲ)の合計)が20mg/kg以上であることが条件の一つです。鉄(Ⅱ)イオンだけを見ると、あと2mg/kgで「含鉄泉」の基準に届く、なんとも惜しい数字です。

ところが、露天の鉄(Ⅱ)イオンは0.1mg/kgしかありません。それでも同じ淡黄色と書かれています。ということは、この色は鉄だけでは説明できなさそうです。地層に由来する有機物のような、ほかの要因も重なっているのではないか、というのが今のところの私の妄想です。

鉄(Ⅱ)イオンは、空気に触れて酸化が進むと、赤褐色の鉄の化合物が生じることがあります。内湯の源泉は動力揚湯です。湯口のまわりや浴槽の縁には、鉄に由来するような色の変化が見られるのでしょうか。次に訪れたときは、もう少し色に注目して2つの浴槽を見比べてみたいと思いました。

「微油臭」はどこから?新潟の油田地帯に思いを馳せる

露天・内湯どちらの分析表にも「微油臭」の文字があります。石油を思わせる香りがわずかに感じられる、という記録です。湯気の中で、消毒の香りの奥に別の匂いが隠れていないかと、つい鼻をきかせたくなります。

新潟は日本有数の石油・天然ガスの産地です。この油臭も、地下の炭化水素と関係があるのではないかと予想しました。

調べてみると、東新潟ガス田に関する研究発表では、新潟から秋田にかけての日本海側のグリーンタフ地域に、油田や天然ガス田が数多く存在すると説明されていました。さらに、芝峠のある松代の泥火山地域を調べた研究発表には、泥火山の成因の一つとして天然ガスの噴出が挙げられ、調査地点の周辺では泥水やガス、石油の噴出も報告されています。

露天の分析表には、硫化水素イオン1.0mg/kg、チオ硫酸イオン0.5mg/kg、遊離硫化水素0.2mg/kgと、硫黄系の成分もわずかに含まれています。油臭の正体を一つに決めることはできません。ただ、石油や天然ガスと関わりのある新潟の地下環境を思うと、この香りにも地層の物語が隠れているのかもしれません。循環ろ過などの湯使いによって香りの印象も変わるのではと予想するので、次回は湯口の近くで静かに確かめてみたいと思いました。

雨水の影響が小さい?芝峠の湯のふるさとを探る

近くに火山が見当たらないのに、47.9℃の塩辛いお湯が湧いている。この湯はどこから来たのだろう、と湯船で考え込んでしまいました。最初の予想は、松之山温泉と同じように、地下に閉じ込められた大昔の海水がもとになっているのでは、というものでした。

調べると、日本地球惑星科学連合で発表された研究で芝峠温泉が取り上げられていました。芝峠・松之山・ゆきだるまの各温泉は、天水の寄与が小さい、あるいは見られない特徴を持つ温泉水のグループとされています。また、こうした水の成り立ちに関して、粘土鉱物などから放出される水の関与を推定した先行研究も紹介されていました。

天水とは、雨や雪などに由来する水のことです。また、産総研の地質ニュースでは、近くの室野の泥火山について、粘土鉱物の脱水による化石海水の希釈が、地下の異常な水圧の原因と考えられていることが紹介されていました。

芝峠の湯の塩化物イオンは約4,400〜4,800mg/kgで、海水よりかなり薄い濃さです。単なる大昔の海水ではなく、粘土鉱物から放出された水が混ざって薄まった可能性もあるのでしょうか。そう考えると、等張性という成分の濃さにも、地下での長い変化が関係しているのかもしれません。豪雪地帯の湯なのに、雨や雪に由来する水の寄与が小さいという意外さも面白いポイントでした。

松代の泥火山と同じ「向斜軸」の上、大地のしわに湧く湯

前の項目の研究発表を読み進めると、さらに気になる一文がありました。同じ発表によると、松代の泥火山と芝峠温泉は、同じ蒲生向斜の軸の上に位置しています。

向斜とは、地層が押されて谷のように下向きに曲がった部分のことです。いわば大地のしわの谷底にあたる線の上に、泥火山と温泉が並んでいることになります。

泥火山は、地下から泥や水、ガスなどが噴き出してできる地形で、一般的な火山のようにマグマが噴出してできるものではありません。室野泥火山の調査報告によると、100m×70mほどの小さな泥火山ですが、発表当時もガスや泥水を活発に噴き出していました。また、近くで比較的大きな地震が起きた際には、地盤の大きな上下変動が報告されています。

さらに、先ほどの2007年の研究発表には、室野泥火山の水の塩化物イオン濃度が約4,000ppmとも書かれていました。水の場合、ppmはおおむねmg/kgに相当します。芝峠の露天4,820mg/kg、内湯4,427mg/kgと並べてみると、かなり近い数字に思えます。

もしかすると、泥火山の水と温泉の水が、同じしわに沿って地下で親戚のような関係にあるのかもしれません。そんな想像をすると、雲海を見下ろす穏やかな露天風呂の足元で、大地が今も動き続けているように思えてきました。

ほくほく線の難工事トンネルと、温泉と同じ塩水の地下

芝峠温泉は、ほくほく線のまつだい駅から車で7分ほどです。ほくほく線にはトンネルが多いことを知り、あの地下にも芝峠の湯と似たような塩水が眠っているのでは、と妄想が膨らみました。

調べてみると、松代を通るほくほく線には、大変な難工事の歴史がありました。松代の泥火山地域の研究発表によると、鍋立山トンネルは3年間の中断を含め、全体の掘削に21年かかったそうです。

さらに別の研究発表では、蒲生地区で膨張する性質の地盤に遭遇し、645mを掘るのに約20年かかったことが紹介されていました。その地表には泥火山が分布し、地下には塩水を含む地下水で満たされた、砕けた泥岩の層があったことも報告されています。

先ほど登場した「蒲生向斜」と同じ、「蒲生」の名を持つ地区です。鉄道を造った人たちを長年苦しめた塩水と、旅人を温めてくれる芝峠の塩辛い湯。両者が同じ地下水なのかは分かりませんが、同じ地域の地下の性格が、一方では難工事として、もう一方では温泉として表れているのかもしれません。そう考えると、ほくほく線に乗る時間まで湯めぐりの一部に思えてきました。

メタホウ酸123.8mg、お隣の薬湯・松之山温泉との共通点

露天の分析表で、非解離成分の欄にある「メタホウ酸123.8mg/kg」という数字が気になりました。内湯の68.7mg/kgの約1.8倍です。メタホウ酸といえば、近くの松之山温泉を代表する成分です。

松之山温泉について調べると、新潟県十日町地域振興局のページでは、メタホウ酸が温泉法上の基準値の50倍以上含まれ、有馬温泉・草津温泉とともに日本三大薬湯と称されていることが紹介されていました。観光庁の多言語解説文にも、ホウ酸の含有量が日本一とする記述があります。

環境省が示す温泉法上の基準では、メタホウ酸は5mg/kg以上が温泉に該当する条件の一つです。芝峠の露天も約25倍にあたります。松之山ほどではないものの、成分に共通点のある湯と言えそうです。実際、先の研究発表でも、芝峠と松之山は似た特徴を持つ温泉水のグループとして取り上げられていました。

一方で違いもあります。同じ日に利用した松之山温泉「鷹の湯」さんの分析書には、ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(高張性・弱アルカリ性・高温泉)と記載されていました。等張性でナトリウム-塩化物温泉の芝峠とは、濃さもカルシウムの割合も異なります。

同じ地域の兄弟のような湯を同じ日にはしごして、分析書を並べて読み比べる。この地域ならではの贅沢な楽しみ方だと思いました。

比較項目芝峠・露天(2号)芝峠・内湯(1号)松之山・鷹の湯混合泉
分析年2013年2009年2018年
泉質Na-塩化物温泉Na-塩化物冷鉱泉Na・Ca-塩化物温泉
源泉温度47.9℃22.7℃88.7℃
pH7.87.67.8
浸透圧分類等張性等張性高張性
溶存物質(ガス性を除く)8,315mg/kg8,190mg/kg16,256mg/kg
塩化物イオン(Cl⁻)4,820mg/kg4,427mg/kg9,514mg/kg
メタホウ酸(HBO₂)123.8mg/kg68.7mg/kg287.4mg/kg
分析書記載の香り微油臭微油臭微油臭

※松之山温泉は「鷹の湯 混合泉」(2018年9月13日分析)を使用。芝峠温泉の数値は各源泉の2009年・2013年の分析書によるものです。源泉や分析時期が異なるため、温泉地全体の代表値や現在の成分を示すものではありません。

掘削自噴10L/分を大切に使う、市が見守る峠の公共温泉

内湯の分析表の湧出量の欄を見ると、「自然湧出・掘削自噴・動力揚湯」のうち、「掘削自噴」に丸が付いていました。掘った穴から、ポンプを使わずに自力で湧き出しているという意味です。量は10L/分です。露天の2号源泉は動力揚湯、つまりポンプでくみ上げて40L/分です。

もう一つ目に留まったのは、申請者の欄に十日町市長の名前があることでした。調べてみると、十日町市の条例で市が設置した公共施設と定められ、指定管理者によって運営されていることが分かりました。

ゆこゆこで紹介されている2本目の源泉の掘削は、2005年3月です。旧松代町が十日町市などと合併して新しい十日町市になったのが、同じ2005年の4月です。町の時代の最後に、新しい源泉が生まれたことになります。

分析表の下には、入浴に適した温度に保つための加温、温泉資源の保護と衛生管理のための循環ろ過、塩素系消毒剤の使用が明記されていました。2本の源泉の湧出量は、分析書の数値を合わせると約50L/分。収容105名の宿では、宿泊客だけでなく日帰り客も温泉を楽しみます。こうした湯使いも、そのための工夫なのかなと想像すると、限られた湯を大切に長く使っていこうという姿勢に見えてきました。

数字の一つひとつから、峠の温泉を守ってきた人たちの歩みまで想像できるのが、分析書を読む面白さだと思いました。

山奥で海を味わう、布海苔のへぎそばと太古の海の湯

湯上がりに食べたくなるのが、十日町名物のへぎそばです。海から離れた山あいなのに、なぜつなぎに海藻の布海苔を使うのだろう、と以前から不思議に思っていました。

調べると、ふるさとチョイスの特集に答えがありました。十日町絣や十日町明石ちぢみといった織物づくりでも布海苔が使われており、それをそばに応用したのが始まりとされています。観光庁の多言語解説文によると、19世紀初頭に布海苔をつなぎに使ったところ、淡い緑色でつるつるとした麺ができたそうです。薬味にわさびではなく、からしを使うのもこの地域の特徴です。

もう一つ、海とのつながりを感じたのが塩です。新潟県観光協会のブログでは、隣の松之山温泉の湯を煮詰めて塩をつくる体験が紹介されていました。

山の中で海藻のそばを食べ、太古の海を思わせる塩辛い湯に浸かる。織物の産地の知恵と、地下に眠る遠い昔の海。芝峠の一湯から、十日町の暮らしと大地の歴史の両方へ興味が広がっていきました。

ゆめにゃん

星空を仰ぎ、雲海を見下ろし、太古の海に思いを馳せる。
次の休みは、まつだい芝峠温泉で「空と大地の物語」に浸る旅に出かけませんか?

内湯と露天で異なる2本の自家源泉

内湯には22.7℃の冷鉱泉、露天風呂には47.9℃の高温泉を使用。どちらもナトリウム-塩化物系ですが、源泉温度や成分のバランスには違いがあります。一つの宿で二つの源泉を比較できる、温泉好きには興味深い構成です。

塩辛さが印象的な等張性温泉

露天風呂の源泉は溶存物質8,315mg/kg、内湯は8,190mg/kg。どちらも等張性に分類される塩化物泉です。分析書には強塩味や中程度の塩味という記載もあり、舌で感じる塩辛さと成分の数値を比べる楽しみがあります。

温泉分析書に眠る鉄とヨウ化物

内湯の源泉には鉄(Ⅱ)イオン18.0mg/kg、ヨウ化物イオン11.2mg/kgが含まれています。露天風呂とは異なる成分構成が特徴で、泉質名だけでは見えてこない個性に出会えます。分析書をじっくり読みたくなる温泉です。

化石海水を思わせる地下の物語

豪雪地帯にありながら、天水の寄与が小さいとする研究報告がある芝峠の温泉水。近隣の松之山温泉や泥火山との地質的な関係も興味深く、塩辛い湯の由来を想像させます。山奥の地下に広がる長い歴史も魅力の一つです。

メタホウ酸に注目した塩化物泉

露天風呂の源泉にはメタホウ酸123.8mg/kg、内湯には68.7mg/kgが含まれています。近隣の松之山温泉でも注目される成分で、地域の温泉水に見られる共通点の一つ。源泉ごとの違いや地下での成り立ちを考える手がかりになります。

温泉マニアあるある! – まつだい芝峠温泉考察編

ゆめにゃん

マニアの人はこうなっちゃう…かも!?

雲海より先に分析書を探す

絶景露天風呂で知られる芝峠温泉。普通なら「雲海が見られるかな?」と期待しますが、マニアは館内に入るなり温泉分析書を探し始めます。「おっ、2枚ある! しかも源泉が違う!」と大興奮。同行者に「景色は?」と聞かれても、「あとで見る! まず成分!」と即答。雲海より先に数字の海へ飛び込んでしまうのです。

25℃の温度差に事件性を感じる

内湯の源泉は22.7℃、露天は47.9℃。約25℃も違うと知ったマニアは、「近くで湧いているのに、なぜだ……?」と急に探偵のような顔になります。「地下の深さが違うのかな」「通ってきた地層かな」と推理が止まりません。同行者が「どっちも温かいお風呂じゃん」と言っても、「そこじゃないんだよ!」と熱弁。湯船の中で勝手に捜査本部を設置します。

湯口とオーバーフローを交互に見る

浴槽に入ると、まず湯口を観察。次に湯面を眺め、浴槽の縁へ視線を移します。「ふむ……こっちから流れるのか」と一人で納得。同行者に「何を見てるの?」と聞かれると、「お湯の動線だよ」とドヤ顔。しかし、循環ろ過の表示もきちんと読んでいるため、流れ出る湯を見ただけで源泉かけ流しとは決めつけません。妙なところだけ慎重なのです。

鉄18.0mgに惜しさを感じる

内湯の分析書に鉄(Ⅱ)イオン18.0mg/kgを発見。「おおっ、鉄がいる!」と喜んだ直後、「含鉄泉の基準は鉄の合計で20mg/kgか……」と考え込みます。同行者が「十分多そうだけど?」と言っても、「いや、この18という数字が絶妙なんだよ」と意味深な返事。あと2mgという数字を勝手に意識して、温泉分析書の前で惜しそうな顔をしてしまいます。

微油臭という文字に鼻が反応する

分析書に書かれた「微油臭」の三文字を見つけると、マニアの嗅覚が突然やる気を出します。湯口の近くでそっと香りを確かめ、「うーん、かすかに……」と真剣な表情。「何か分かった?」と聞かれても、「分からん! だから面白い」と嬉しそう。温泉の香りをきっかけに、新潟の油田や地下の地質まで想像を膨らませてしまいます。

塩辛い湯で太古の海を想像する

山奥の温泉なのに、分析書には塩化物イオンがたっぷり。「これは昔の海と関係があるのかな……」とマニアの妄想が始まります。同行者が「海なんて見えないよ?」と不思議そうにすると、「見えないところにロマンがあるんだ!」と力説。目の前には山々と雲海が広がっているのに、頭の中では太古の海を航海しているのです。

泥火山を知って地面まで気になる

芝峠温泉と近くの泥火山が、同じ蒲生向斜の軸上にあると知ったマニア。「つまり、大地のしわの上にいるのか……」と妙に感動します。同行者が「しわ?」と首をかしげると、「そう! 地球のしわ!」と興奮気味に解説。温泉を楽しみに来たはずなのに、いつの間にか足元の地層まで気になってしまい、地面を見る目が変わります。

鉄道トンネルまで温泉目線で語る

ほくほく線の鍋立山トンネルが、塩水を含む地下水や難しい地盤に苦しめられたと知ったマニア。「あの地下水、芝峠の湯と何か関係があるのかな……」と想像を膨らませます。同行者が「今日は鉄道の話?」と聞くと、「いや、温泉の話だよ」と即答。電車に乗っても車窓より地下が気になり、ついにはトンネルまで湯めぐりの一部にしてしまいます。

湯めぐりアイソトニックと呼ばれる

湯上がりに2つの温泉分析書を見比べるマニア。「両方とも等張性……ダブルアイソトニックか……」と、わざわざ英語に言い換えてつぶやきます。そんな姿を見たまわりからは”湯めぐりアイソトニック”とあだ名されてしまうのです。

管理人

管理人いじりですね…
そう呼ばれるのも悪くない!

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この記事を書いた人

温泉巡り歴15年。
トロトロのお湯と硫黄の香りが大好物。
なのに他の泉質にもすぐハマってしまう。
休日は山奥の秘湯へ直行。
そして、猫が好き。

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