鹿教湯温泉を深掘りレビュー! ふぢや旅館で出会った混合泉の奥深さ(長野県上田市)

湯め活びより鹿教湯温泉考察編アイキャッチ画像

山あいに静かに湯けむりを上げる、鹿教湯温泉。
穏やかな湯ざわりの奥には、いくつもの源泉の個性と、長い年月をかけて育まれてきた湯治場の歴史がありました。
温泉を守り、受け継いできた人々の営みに思いを馳せながら、ふと気になったのは、この湯が持つ不思議な奥深さ。
その理由をもう少し知りたくなり、分析書や土地の歴史、足元に眠る地質の資料をたどってみました。

鹿教湯温泉で興味深かったこと
  • 5本の源泉を混ぜる理由とは?
    鹿教湯の混合泉には、隣の大塩温泉の源泉も。なぜ異なる湯を組み合わせているのでしょうか。
  • 単純温泉に隠れた成分の個性
    穏やかな湯ざわりなのに、ほのかな苦味も。分析書に並ぶ成分が気になりました。
  • 3つの温泉で異なる湯ざわり
    霊泉寺・大塩・鹿教湯を入り比べると、肌触りに違いが。その理由を探りたくなりました。
  • 古い掲示と湯治場に刻まれた歴史
    昔の禁忌症の記載や「中風の湯」の伝承。掲示や町並みに残る歴史に興味を持ちました。
  • 石膏系の湯と太古の地層の関係
    3つの湯に共通するカルシウムと硫酸イオン。谷の地質に秘密があるのでしょうか。
目次

鹿教湯温泉ってどんなところ? | 4コマ漫画で体験してみる

ゆめにゃん

猫は入れないからフィクションにゃ…

鹿教湯温泉の魅力を詰め込んだ4コマ漫画。温泉と伝説、信州の味、五台橋散策を紹介。

鹿教湯温泉レビューと注目ポイント考察

長野県上田市の鹿教湯(かけゆ)温泉は、クセのないやさしい単純温泉として知られる湯治場です。ところが、ふぢや旅館さんの脱衣所手前の分析書を眺めていると、「単純」の一言では片づけられない面白さが次々に見えてきました。
ここでは、鹿教湯温泉の分析書を入口に、同じ丸子温泉郷の大塩温泉・霊泉寺温泉の分析書も読み比べながら、成分、浴感、歴史、文化、食、地質へと興味を広げていったポイントをまとめます。

この記事は、筆者が実際に温泉を訪れた際に感じた「なぜ?」をきっかけに、温泉分析書や公開資料などを調べ、自分なりに考察した内容です。資料から確認できる事実と筆者個人の考察を分けて記載するよう努めていますが、専門家による学術的な見解や結論を示すものではありません。直接的な裏付けを確認できていない仮説や想像については、その旨を明記しています。一人の温泉好きが、分析書や資料を眺めながら考えた「温泉の自由研究」としてお楽しみください。

5本の源泉を束ねる「鹿教湯温泉混合泉」というブレンドの妙

ふぢや旅館さんの脱衣所前の分析書で最初に目に留まったのは、源泉名の欄でした。そこには「鹿教湯温泉混合泉(2号、3号、4号、5号、6号)」とありました。宿ごとの自家源泉ではなく、番号の付いた複数の源泉をまとめたお湯が使われているようです。

温泉地全体で源泉を一か所に集め、温度や成分をならしてから各宿へ配っているのかなと思いました。高温の源泉と、そうでない源泉を混ぜれば、どの宿でも入りやすい温度に近づけられそうです。

調べてみると、共同浴場の文殊の湯さんに掲示された平成29年の分析書では、採水地が「温泉集分湯施設」と記されていました。さらに、環境省の丸子温泉郷国民保養温泉地計画書には、鹿教湯温泉2・3・4・6号泉と大塩5号泉の一部を集湯施設に送り、混合して各施設へ配湯する仕組みが記載されています。源泉温度も27~52℃と幅があります。また、上田市の文殊の湯の紹介にも、5つの源泉を混合し、湯もみした状態のお湯が送られるとありました。

思った通り、鹿教湯は「集めて、混ぜて、配る」温泉地でした。同じ混合泉を使っていても、宿ごとの個性は浴槽の造りや湯口からの距離、注ぎ方にも表れるのかもしれません。そう考えると、何軒かで入り比べ、湯口の温度やオーバーフローの量を見比べる楽しみ方も見えてきました。

ほのかな苦味の正体は?単純温泉に隠れた硫酸塩泉の横顔

口元に触れたお湯には、ほんのわずかな苦味を感じました。肌の上ではすべすべというより、上がったあとにさらりと乾いていく感じでした。「単純温泉」という言葉から想像していた、真水に近いお湯とは少し印象が違いました。

分析書の陰イオンの欄を見ると、硫酸イオンが251.6mg/kgと、ほかのイオンを大きく引き離しています。もしかすると、成分の総量が少ないから単純温泉に分類されているだけで、中身の性格は硫酸塩泉に近いのかなという印象を受けました。

東京都保健医療局の解説によると、単純温泉は溶存物質が1kgあたり1,000mg未満で、源泉温度が25℃以上の温泉のこと。1,000mg以上になると塩類泉となり、主成分によって硫酸塩泉などに分かれます。つまり、単純温泉という泉質名だけでは、どの成分が多いのかまでは分かりません。

そこで注目したいのが、分析書の「ミリバル%」という列です。これはイオンの電気的な量をもとにした割合で、どのイオンが主役なのかを比べるのに使われます。文殊の湯さんの平成29年の分析書では、陰イオンのうち硫酸イオンが72.56%、陽イオンはカルシウム50.31%、ナトリウム47.91%でした。

やはり、鹿教湯のお湯は「やさしめのカルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉」と呼びたくなる組成でした。硫酸カルシウムは石膏、硫酸ナトリウムは芒硝として知られる成分です。単純温泉という名前の奥に、硫酸塩泉に通じる特徴が見えてきました。あのほのかな苦味とさらりとした湯上がりにも、何かつながりがあるのかもしれません。

隣の温泉地から届く「大塩5号」は混合泉のどんな役者なのか

文殊の湯さんの分析書を読み返していて、「大塩5号」という名前に目が留まりました。大塩温泉は、鹿教湯の少し手前にある別の温泉地です。隣の温泉地の源泉が、鹿教湯のお湯にブレンドされていることになります。

わざわざ隣から引いてくるからには、鹿教湯側の源泉にはない何かを持っているのではないでしょうか。たとえば、温度は低いけれど成分が濃い、といった性格かもしれないと想像しました。

この日は先に大塩温泉共同浴場(大塩温泉館)へ行き、分析書を撮影していました。令和3年に分析された大塩5号泉の数値を改めて確認すると、源泉温度は36.3℃、成分総計は1,080mg/kg。泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉で、正式な硫酸塩泉です。申請者は鹿教湯の混合泉と同じ丸子温泉開発株式会社でした。

予想はおおむね当たっていて、大塩5号は「ぬるくて濃い」源泉でした。ところが、環境省の丸子温泉郷国民保養温泉地計画書を見ると、鹿教湯側の4源泉も27~52℃と温度に幅があります。さまざまな温度や成分を持つ源泉が集められ、47℃前後の単純温泉になっているわけです。混合泉で硫酸イオンが優勢なのも、大塩5号が何らかの役割を果たしているのかもしれません。

源泉温度
鹿教湯2号泉47.0℃
鹿教湯3号泉52.0℃
鹿教湯4号泉27.0℃
鹿教湯6号泉37.0℃
大塩5号泉37.0℃

大塩温泉館さんでは、源泉温度が低いため加温していると上田市の公式案内にあります。ニフティ温泉の口コミには泡つきについての話も見られます。鹿教湯の混合泉を構成する「部品」を単独で味わえる場所として、セットで訪ねたくなる落ち着いた共同浴場でした。

湯口でだけ香る?ごく微かな硫化水素臭の出どころを探る

湯船の中ではほぼ無臭に感じたのに、湯口に顔を近づけると、ごくわずかに温泉らしい香りがした気がしました。気のせいかと思うほどの淡さですが、一度気になると確かめたくなってしまいます。ちなみに、鹿の顔の形をした湯口は、口のまわりにびっしりと、もこもこと盛り上がるように白い析出物が付着していました。

硫黄を思わせる香りには硫化水素が関係することがあり、お湯から空気中へ抜けていく性質もあります。だから、湯口の近くでは感じても、浴槽の中では目立たなくなるのかもしれません。さらに、混合泉のどの源泉がこの香りを持ち込んでいるのかも気になりました。

分析書を並べてみました。文殊の湯さんの平成29年の分析書では、現地の知覚試験に「ほとんど無色澄明、微硫黄味・微硫化水素臭」とあり、硫化水素イオンは0.08mg/kg。一方、大塩5号泉の分析書には「微苦味を有し無臭」とあり、硫化水素イオンの欄は数値が記載されていませんでした。日本温泉協会の温泉分析書の解説によれば、香りも現地で確認する項目の一つです。

大塩5号泉が無臭と記されているなら、あの香りは鹿教湯側の源泉から来ているのでしょうか。それとも、混合後の状態によるものなのでしょうか。ごく淡い香りだけに、湯口からの距離や、お湯が浴槽に届くまでの時間でも感じ方が変わりそうです。人によって「無臭」とも「ほのかに香る」とも感じるのは、どちらも正直な感想なのだと思います。次に訪れたときは、湯口の近くと浴槽の端で、香りの差を意識して比べてみたくなりました。

平成14年・19年・29年、3世代の分析書が語る混合泉の変化

ふぢや旅館さんの分析書は平成14年のものでした。文殊の湯さんの平成29年の分析書と並べてみると、同じ混合泉なのに数字が少しずつ違います。15年でお湯はどれくらい変わったのか、急に気になり始めました。

温泉の成分は地下の状態や汲み上げ方などによって変動することがあります。混合泉なら、各源泉の配合割合が変わるだけでも数値は動くはず。大きくは変わっていないだろうけれど、何か傾向が見えるかもしれない、と期待しながら数字を拾いました。

平成19年の分析値は、日本温泉協会が公開している温泉分析書でも確認できました。3つを並べるとこうなります。

分析年掲示場所源泉温度pH成分総計
平成14年ふぢや旅館47.1℃8.19547.8mg/kg
平成19年文殊の湯45.9℃8.1591.8mg/kg
平成29年文殊の湯47.5℃8.1646.6mg/kg

温度とpHはほとんど変わらない一方で、成分総計は547.8→591.8→646.6mg/kgと、分析のたびに約44~55mg/kg増えていました。特にカルシウムと硫酸イオンの増加が目立ちます。

成分2002年2007年2017年
Ca²⁺69.881.587.9
SO₄²⁻251.6271.2305.3
Na⁺86.490.396.0

温泉の成分が年月とともに変わることは、ほかの地域でも報告されています。兵庫県の調査報告では、約10年以上の間隔をあけて分析結果を比較した97源泉のうち、35.1%で泉質名が変わっていました。鹿教湯は泉質名こそ変わっていませんが、この3回の分析では、少しずつ石膏・芒硝寄りの成分が濃くなっているように見えます。前の項で考えた大塩5号の役割を思うと、混合割合の変化が関係しているのかもしれません。次の再分析ではどんな数字が現れるのか、今から楽しみが増えてきました。

「妊娠中」の一行が教えてくれた、温泉掲示の移り変わり

ふぢや旅館さんの掲示をじっくり読んでいると、禁忌症の欄に「妊娠中(特に初期と末期)」と書かれていました。ところが大塩温泉館さんの令和7年の掲示には、この一行が見当たりません。書式もずいぶん違っていて、「泉質別禁忌症」「泉質別適応症」といった区分が並んでいました。

同じ丸子温泉郷の掲示なのに、なぜここまで違うのか。普段はあまり気にしない項目だったため気づかなかっただけなのか、それとも、どこかの時点で国の基準そのものが変わったのでしょうか。掲示の内容も時代によって変化するものです。

調べてみると、ちょうどその節目がありました。広島県の解説によると、平成26年(2014年)7月の基準改訂で、一般的禁忌症から「妊娠中(とくに初期と末期)」が削除されています。環境省の通知を読むと、最新の医学的知見を踏まえて掲示基準が改訂されたことがわかります。さらにさかのぼると、愛知県衛生研究所の解説にあるとおり、平成19年(2007年)の温泉法改正で、10年以内ごとの再分析も義務付けられています。

ふぢや旅館さんで確認したのは平成14年の分析と決定に基づく、改訂前の書式です。大塩温泉館さんの令和7年の掲示は、新しい基準に沿ったもの。二つを並べると、温泉の掲示がこの20年ほどでどう変わってきたのかが、そのまま見えてきました。昔の書式が残っていたからこそ、こうした比較ができたわけです。何気なく眺めている脱衣所前のスペースが、小さな資料館のように思えてきました。

pH7.9から8.9へ、丸子温泉郷3湯のアルカリ度と炭酸のシーソー

霊泉寺温泉、大塩温泉、鹿教湯温泉の3つの湯を入り比べて、肌触りがいちばんなめらかに感じたのは霊泉寺温泉でした。大塩温泉はさらりとした中にほんのり引っかかりがあり、鹿教湯はその中間。分析書でpHを見ると、大塩5号が7.9、鹿教湯の混合泉が8.1、霊泉寺温泉が8.9と、感覚の順番とほぼ重なっていました。

そこで、pHの差はどこから生まれるのかを考えました。どの湯も主役は石膏・芒硝系の成分で、大きな違いはない印象。だとすると、炭酸のような脇役が、pHの違いに関係しているのかなと想像しました。

各分析書の溶存ガスや炭酸成分の欄を見比べると、興味深い並びになっていました。

温泉pH(現地)遊離二酸化炭素炭酸イオン
大塩5号7.910.3mg/kg記載なし
鹿教湯混合泉(H29)8.11.3mg/kg記載なし
霊泉寺温泉8.9記載なし3.7mg/kg

日本温泉協会の解説には、温泉水が空気中の二酸化炭素を吸収するとアルカリ性が中和され、逆に二酸化炭素が抜けるとpHが上がる場合もあると説明されています。炭酸成分の存在する形はpHとも関係しているようです。遊離二酸化炭素がいちばん多い大塩5号のpHが最も低く、炭酸イオンが記録されている霊泉寺温泉が最も高い。まるでシーソーのような関係に見えてきました。

さらに大塩5号には、17.1Bq/kgのラドンも記録されていました。放射能泉の基準には届きませんが、上田市の公式案内でも、ラジウムを含む温泉として紹介されています。同じ石膏系の兄弟でも、炭酸成分やラドンといった脇役にも違いがある。それぞれの湯の個性を考える楽しみが、また一つ増えた気がしました。

飲める湯の「ほろ苦さ」と、湯治場の食卓に並ぶ苦味の記憶

鹿教湯温泉を歩いていると、飲泉ができる場所があることに気づきます。湯治場で「飲む」文化が残っているのは、温泉好きとしてはうれしいポイントです。飲泉所で味わうと、入浴中に口元で感じたほのかな苦味が、もっとはっきり伝わってきました。硫酸塩などの成分が関係しているのか、淡いながらも独特の味わいがありました。

ほろ苦い温泉が湧く土地には、苦味を楽しむ食文化も似合うのではないか。少し飛躍した妄想ですが、湯と食卓を結びつけて考えてみたくなりました。

食の面では、三水館さんの草鍋を紹介した記事に、セリやクレソン、浅葱など、春の山菜を使った料理が登場します。山菜ならではのほろ苦さも魅力の一つです。温泉街の辰巳屋さんは、近くの畑で育てたそば粉も使う手打ちそばの店です。

山菜の苦味、そばの香り、そしてほろ苦い飲泉。どれも派手さはないものの、じんわりと心に残る味です。湯治場の湯と食卓が同じ方向を向いているように感じたのは、気のせいではないのかもしれません。飲泉は、決められた場所で掲示された注意事項に従って楽しむもの。そんな決まりも含めて、この土地に残る飲泉文化に触れた気がしました。

「中風の湯」から国民保養温泉地へ、湯治場がリハビリの郷になった道

ふぢや旅館さんの掲示で、「この温泉固有の適応症」の先頭に「脳卒中の後遺症」と書かれていたのが印象に残りました。温泉街を歩くと、大きなリハビリテーション病院の建物も目に入ります。湯治場と病院が同じ谷に並んでいる風景は、ほかの温泉地ではあまり見かけない気がしました。

古くから体を休める湯治場として人が集まり、その歴史の延長に近代的な医療が根づいたのではないか。刺激の少ないお湯と静かな山あいの環境が、長く滞在する湯治の暮らしに合っていたのかもしれない、とも考えました。

調べると、その歩みが見えてきました。環境省の丸子温泉郷国民保養温泉地計画書によると、鹿教湯を含む一帯は1956年に国民保養温泉地に指定。同じ年に鹿教湯温泉療養所が開設され、鹿教湯病院の公式沿革では、1974年に「リハビリテーションセンター鹿教湯病院」へ改称したとあります。また、医学書院の雑誌記事でも、古くから中風に良いと伝えられ、湯治場として親しまれてきた歴史が紹介されていました。

分析書の数字だけを見ると、鹿教湯は比較的穏やかな単純温泉です。けれど、この地で育まれてきたのは、お湯だけではなく、長く滞在して過ごす湯治の文化でもあったのでしょう。かつて「中風の湯」と呼ばれた歴史と、現在のリハビリ医療。その二つが、病院のある温泉街の風景の中でつながって見えました。

鹿に化けた文殊菩薩と「五台橋」、湯の名前に込められた信仰

湯上がりの火照りを冷ましながら、屋根付きの五台橋を渡りました。橋の先には文殊堂と薬師堂。共同浴場、橋、お堂が一直線に並ぶ配置を見て、この温泉地が信仰と深く結びついてきたことを肌で感じました。

気になったのは「五台」という橋の名前です。文殊菩薩の聖地といえば、中国の五台山が思い浮かびます。ユネスコの世界遺産紹介でも、五台山は文殊菩薩信仰の中心地とされています。文殊菩薩が鹿の姿で湯を教えたという伝説の温泉地なら、橋の名前も五台山にちなんでいるのかもしれない。そんな想像が膨らみました。

伝説の中身は、上田市の文化財解説に詳しく書かれていました。信心深い猟師が傷を負った鹿を追ううちに温泉を見つけ、やがて文殊菩薩が現れ、自ら鹿に化けて湯の場所を教えたと告げる物語です。文殊堂は1701年に着工し、1709年に完成した県宝。天井に描かれた竜が夜ごと川へ水を飲みに行ったという言い伝えも残っています。また、鹿教湯温泉旅館協同組合の案内によると、五台橋は現世と神の世界を結ぶ橋ともいわれています。

橋の名前の由来について、はっきり書かれた資料には出会えませんでした。それでも、温泉街という日常の側から、文殊菩薩を祀るお堂の側へ渡る橋に「五台」の名が付いていることには、やはり意味を感じます。「鹿が教えた湯」で体を温め、五台橋を渡って文殊堂に手を合わせる。成分表だけでは見えない、鹿教湯の湯のもうひとつの読み方がここにありました。

内村川の谷に眠る「グリーンタフ」と、石膏系のお湯が生まれるまで

霊泉寺、大塩、鹿教湯と巡ってきて、最後に残った疑問は「なぜこの谷の温泉は、そろって石膏系なのか」でした。3つの湯は温度もpHも違うのに、共通して目立つのはカルシウムと硫酸イオン。これは偶然ではなく、足元の地質に理由があるはずだと感じました。

火山のすぐそばの温泉なら、硫黄の香りが強い酸性のお湯を想像します。けれど丸子温泉郷のお湯は弱アルカリ性で穏やか。ということは、火山の熱だけでなく、古い地層の中を旅してきた地下水と岩石の関係にも、泉質を読み解く手がかりがあるのではないか、と考えました。

地質の資料をたどると、この谷の地名を冠した「内村層」という地層があることがわかりました。日本地球惑星科学連合の講演要旨によると、内村層は北部フォッサマグナの南縁にある中新世の地層で、深い海で形成された部分もあります。さらに、産業技術総合研究所の地質図幅説明書には、鹿教湯温泉付近の内村川沿いに分布する地層として紹介されていました。内村層には、海底火山に由来する岩石も含まれています。いわゆる「グリーンタフ」と呼ばれる地質です。

興味深いことに、北陸地方のグリーンタフ型温泉に関する研究では、カルシウムと硫酸イオンに富む温泉が取り上げられていました。典型的な組成として紹介されているのは、ナトリウム・カルシウム・硫酸・塩化物型。さらに、地下水が石膏などの鉱物を溶かすことで、カルシウムや硫酸イオンが増える可能性も示されています。鹿教湯の混合泉も、カルシウムとナトリウム、硫酸イオンを比較的多く含むお湯です。もしかすると、地質と泉質の間に共通する物語があるのかもしれません。

湯口からこぼれる無色透明のお湯は、かつて深い海だった時代の地層と、どこかで関わっているのかもしれません。ほろ苦さも、さらりとした湯上がりも、1,000万年以上前の海と火山の記憶につながっているのだと思うと、いつもの入浴が少し壮大な体験に変わりました。

ゆめにゃん

湯に癒やされ、五台橋を渡り、悠久の大地に思いを馳せる。
次の休みは、鹿教湯温泉で「時を超えて受け継がれるぬくもり」を探す旅に出かけませんか?

5つの源泉が織りなす混合泉

鹿教湯温泉では、複数の源泉を組み合わせた混合泉が利用されています。源泉ごとに異なる温度や成分が一つになることで生まれる、独特のお湯の個性。大塩温泉の源泉も加わるその仕組みには、温泉地ならではの奥深さが感じられます。

単純温泉に秘められた奥深さ

鹿教湯温泉の泉質は、弱アルカリ性の単純温泉。無色透明で穏やかな印象のお湯ですが、分析書にはカルシウムや硫酸イオンなどの成分が並びます。単純温泉という名前だけでは語りきれない、成分構成の面白さも魅力の一つです。

湯治場の風情が残る共同浴場

温泉街には、文殊の湯や町・高梨共同浴場など、地域に親しまれてきた共同浴場があります。旅館の内湯とは異なる素朴な雰囲気の中で、土地の日常に溶け込む温泉文化に触れられるのが魅力。長く受け継がれてきた湯のある暮らしを感じられます。

国民保養温泉地に息づく歴史

鹿教湯温泉を含む丸子温泉郷は、1956年に国民保養温泉地に指定されました。古くから湯治場として親しまれ、温泉を中心とした独自の文化を育んできた土地です。落ち着いた山あいの町並みに、今も受け継がれる温泉地の歴史が息づいています。

丸子温泉郷で楽しむ三湯比較

鹿教湯・大塩・霊泉寺の3湯からなる丸子温泉郷。それぞれ源泉温度やpH、成分構成が異なり、同じ地域にありながら個性豊かなお湯が楽しめます。分析書を見比べながら湯めぐりすれば、土地の地質と温泉のつながりにも興味が広がります。

温泉マニアあるある! – 鹿教湯温泉考察編

ゆめにゃん

マニアの人はこうなっちゃう…かも!?

5本の源泉を頭の中で仕分けする

鹿教湯温泉では、複数の源泉を組み合わせた混合泉が使われています。マニアは分析書で「鹿教湯2号、3号、4号、6号、それから大塩5号……」と指折り数え始めます。友達が「混ざってるなら一緒じゃない?」と言うと、「そこが面白いんだよ」と興奮。せっかく一つになったお湯を、頭の中でもう一度バラバラにして楽しんでいます。

単純温泉の名前に納得しない

泉質が「単純温泉」と聞くと、友達は「じゃあシンプルなお湯なんだね」とひと言。ところがマニアは、分析書に並ぶカルシウムや硫酸イオンの数字を見てニヤリ。「名前は単純でも、中身まで単純とは限らないんだよ」と得意げです。「つまり複雑なの?」と聞き返され、「そう。 いや、分類は単純なんだけど……」と、自分でも説明がややこしくなってしまいます。

湯口を見つけると急に無口になる

浴槽に入ると、まず湯口を観察するマニア。流れ込むお湯の様子や、浴槽の縁からあふれる湯をじっと見つめます。友達が「静かでいい温泉だね」と話しかけても、「うん……ちょっと待って」と上の空。「何を待ってるの?」と聞かれ、「今、湯の流れを見てる」と真顔で返答。せっかくの静かな湯治場で、本人の頭の中だけ水理実験が始まっています。

透明なお湯ほど疑い深くなる

鹿教湯温泉の澄んだお湯を前に、友達が「きれいな透明のお湯だね」とひと言。ところがマニアは「透明だからこそ面白いんだよ」と、湯ざわりやほのかな香りに意識を集中させます。「何か見えるの?」と聞かれると、「見えないところを楽しんでるんだ」と謎の返答。透明なお湯を前に、誰よりも見えないものを探しているのです。

丸子三湯を勝手に対抗戦にする

鹿教湯・大塩・霊泉寺の三湯を巡ると、マニアは分析書を見比べて大興奮。「こっちは温度、こっちは硫酸イオン、こっちはpHが……」と、いつの間にか比較表を作り始めます。友達が「で、どこが一番なの?」と聞くと、「いや、全部違って全部いい」と即答。勝手に対抗戦を始めたくせに、勝敗はつけません。

大塩5号泉に妙な親近感を抱く

鹿教湯温泉の混合泉に、大塩温泉の源泉も加わっていると知ったマニア。「おお、大塩5号! ここでも会えたか!」と、まるで旧友との再会です。友達が「源泉に知り合いでもいるの?」と不思議そうにすると、「大塩で会ってるからね」と満足げ。温泉地をまたいで流れてきたお湯に、勝手に顔なじみ意識を持ち始めます。

五台橋を渡るだけで歴史探訪が始まる

屋根付きの五台橋を前に、友達は「風情があっていい橋だね」と写真を一枚。ところがマニアは「五台って、あの五台山と関係あるのかな?」と気になり始めます。文殊堂とのつながりや温泉街の歴史を調べようとして、橋の上で立ち止まってしまう始末。「早く渡ろうよ!」と言われても、「ちょっと待って、名前の由来が気になる」。橋を渡るより、調べ物のほうが長くなりそうです。

鹿の伝説を聞くと湯めぐり仲間にしたがる

鹿教湯温泉には、鹿に姿を変えた文殊菩薩が湯のありかを教えたという開湯伝説があります。それを聞いたマニアは「鹿が温泉を案内してくれたのか……すごいな」と感心。友達が「昔話でしょ?」と笑っても、「でも、そんな伝説が残るほど大切にされてきたんだよ」としみじみ。最後には「次の温泉も鹿が教えてくれないかな」と、案内役を募集し始めます。

分析書を読んだだけでドヤ顔になる

温泉街の掲示で分析書を見つけると、マニアは迷わず足を止めます。「ほら、カルシウムと硫酸イオン。鹿教湯らしいでしょ?」とドヤ顔。友達が「さっきまで調べてなかった?」と聞くと、「そうだけど、今はもう知ってる」と胸を張ります。数分前に覚えた数字を、長年研究してきたかのように披露する。その情熱だけは、間違いなく本物です。

飲泉番付を見て大関気分になる

飲泉所で「鹿教湯はさ、昔の飲泉番付で東の大関に選ばれたことがあるんだよね」と、知ったばかりの知識を得意げに語るマニア。友達が「それっておいしいってこと?」と聞くと、「飲めばわかるよ。大関なんだから」と嬉しそう。番付と味の関係はよくわかりませんが、本人の気分はすっかり土俵の上。まわりからは”湯めぐり大相撲”とあだ名されてしまうのです。
※飲泉は、飲用が認められた場所で、掲示された方法に従って楽しみましょう。

管理人

管理人いじりですね…
そう呼ばれるのも悪くない!

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この記事を書いた人

温泉巡り歴15年。
トロトロのお湯と硫黄の香りが大好物。
なのに他の泉質にもすぐハマってしまう。
休日は山奥の秘湯へ直行。
そして、猫が好き。

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