富山湾を望む氷見温泉郷で出会った、海の気配を感じる濃い湯と、静かに注がれる源泉。
湯の色や香り、分析書に並ぶ数字の一つひとつに、この土地ならではの物語が隠れているように感じました。
地下深くから湯を届け、守り続けてきた人々の営みに思いを馳せるほど、その理由が知りたくなりました。
現地で心に残った小さな疑問を手がかりに、氷見の湯が持つ不思議を、自分なりにたどってみたいと思います。
- 黄土色の湯と金属臭に隠れた不思議
総湯の黄土色の湯と独特の金属臭。分析書の鉄分とどんな関係があるのか気になりました。 - 地下深くに眠る古い海水の記憶
海に近い温泉地で出会った濃い塩化物泉。その成分から、地下に残る海の痕跡を探してみたくなりました。 - ヨウ素やホウ素が語る地下の世界
塩分の多さだけでなく、よう化物イオンやメタホウ酸の数値にも注目。なぜこれほど含まれるのでしょうか。 - 源泉温度と湯使いに見つけた違い
65.5℃の総湯と46.0℃の神代温泉。温度差や浴槽への湯の届け方に、源泉ごとの個性を感じました。 - 総湯という名前に息づく北陸の文化
なぜ共同浴場を「総湯」と呼ぶのでしょうか。湯上がりの魚市場で、温泉と町のつながりが気になりました。

氷見温泉郷ってどんなところ? | 4コマ漫画で体験してみる
ゆめにゃん猫は入れないからフィクションにゃ…


氷見温泉郷レビューと注目ポイント考察
総湯の黄土色の湯と「強金属臭」の正体を追う
氷見温泉郷総湯さんの浴槽に身を沈めて、まず目を引いたのは湯の色でした。館内の案内板には「黄色と茶色が混濁した色(黄土色)」とあり、実際に湯ははっきりと濁りを帯びています。ところが分析書の知覚的試験の欄を見ると、湧出地では「淡黄色、微かに懸濁」とあり、さらに「強金属臭」と書かれていました。湧いた直後は淡い色なのに、浴槽ではしっかり黄土色になっている。この差がどこから来るのか、気になって仕方がありませんでした。
真っ先に思い浮かんだのは鉄の存在です。鉄棒を握ったあとの手のような、いわゆる金気臭。そして、湯に含まれる鉄が空気に触れて酸化することで、色も変わっていくのではないかと考えました。
分析書を読み返すと、鉄(Ⅱ)イオンは2.4mg/kgです。大分県産業科学技術センターの温泉成分インフォグラフィックでは、鉄イオンを金気臭と結びつけ、0.1mg/kg以上4mg/kg未満を一つの区分にしています。総湯さんはこの区分に入ります。また、神奈川県温泉地学研究所の泉質についての解説では、鉄の含有量が比較的少ない温泉でも、酸化によって茶褐色になることが紹介されていました。
予想と資料を並べてみると、淡黄色から黄土色への変化には、湯が空気に触れることで進む鉄の酸化が関係していそうです。鉄の量そのものは突出して多いわけではないのに、においは「強」と記録されている。濃い塩分を含むお湯だからこそ、金属的なにおいがいっそう印象に残るのだろうか。そんな想像も広がりました。
次に訪れたときは、湯口と浴槽の端でにおいの違いを確かめてみたいと思いました。
「1500年前の海水」が湧く温泉郷という言葉に惹かれて
氷見温泉郷について調べ始めたとき、最初に心をつかまれたのが「1500年前の海水が温泉として湧いている」という紹介文でした。湯で顔をぬぐったときに唇に残るしょっぱさは、まさに海そのもの。飲用の案内は確認していないので飲むことは控えましたが、ずっと昔の海が地下に眠っていたのだと思うと、湯船の見え方がまるで変わってきました。
そこで考えたのは、古い海水がなぜ今も地下に残っているのか、ということです。海底に泥や砂が積もっていく過程で、すき間に海水が取り込まれ、そのまま閉じ込められたのではないか。いわゆる「化石海水」と呼ばれるものではないかと想像しました。
氷見市観光協会の温泉郷紹介にも、約1500年前の海水に関する記述があります。さらに富山県の「富山県の温泉」を読むと、岩井戸温泉、氷見有磯温泉、ひみ阿尾の浦温泉は「花崗岩と化石海水の組み合ったタイプ」に分類されていました。地下500〜800mから汲み上げられ、泉質はナトリウム-塩化物泉、温度は約30〜60℃。化石海水については、海底に堆積物が積もる際に地層の間に閉じ込められた海水と説明されています。
予想していた仕組みが資料の中に見つかり、思わずうれしくなりました。総湯さんの源泉は、さらに深い地下1,250mから汲み上げられています。この深さにも、同じように古い海の記憶が残されているのでしょうか。足元の数百メートルから千メートルを超える地下に、どれほどの海の歴史が眠っているのか。そんな厚みを想像しながら浸かると、しょっぱさに時間の重みが加わるように感じました。
臭素と塩素の比率で「海の湯」を自分なりに確かめる
分析書の陰イオン欄で、塩化物イオンのすぐ下に並ぶ「臭化物イオン」。現地で確認した温泉分析書では、総湯さんは53.3mg/kg、神代温泉さんは43.3mg/kgでした。塩化物イオンの数字ばかり見ていた頃は素通りしていた行ですが、氷見で湯船に揺られているうちに、この小さな数字が妙に気になり始めました。
臭素は海水にもともと少し含まれている成分です。だとすれば、塩素と臭素の比率を出せば、この湯がどれだけ「海らしい」かを確かめられるのではないか。湯上がりの休憩所で、そんな妄想が膨らみました。
調べてみると、産業技術総合研究所の研究者らによる阿武隈地域の温泉水のBr/Cl比に関する発表要旨では、塩化物イオンと臭化物イオンは性質が似ており、その比率が温泉水の起源を探る手がかりになると説明されていました。また、米国地質調査所の湧水の起源に関する論文要旨では、海水の塩化物イオン÷臭化物イオンの質量比は約290とされています。
分析書の数値に基づいて計算してみました。
| 温泉 | 塩化物イオン | 臭化物イオン | Cl/Br比 |
|---|---|---|---|
| 総湯さん | 14,530mg/kg | 53.3mg/kg | 約273 |
| 神代温泉さん | 11,315mg/kg | 43.3mg/kg | 約261 |
| 海水(参考) | ― | ― | 約290 |
どちらも海水の値に比較的近く、海を起源とする湯だという紹介と重なる部分が見えてきました。面白いのは、二つとも海水より塩化物イオンに対する臭化物イオンの割合が少し高いことです。地下で長い時間を過ごすうちに、何かが臭素を少しだけ加えたのだろうか。この「わずかな差」が気になり始め、私の興味はこのあとヨウ素に関する考察へとつながっていきました。
海の湯なのにマグネシウムが少ない?カルシウムとの逆転劇
「海水由来」と聞くと、海水と同じ成分が並んでいる湯を想像します。ところが総湯さんの分析書を読み返していて、手が止まりました。マグネシウムイオンがわずか18.0mg/kg。その一方で、カルシウムイオンは1,308mg/kgもあります。海水といえば、にがりの主成分であるマグネシウムが多いはずなのに、これはどういうことなのでしょうか。
地下に閉じ込められている間に、海水が周りの岩石と何かをやり取りしたのではないか。マグネシウムが岩石側に取り込まれ、代わりにカルシウムが湯に出てきた、そんな入れ替わりを想像しました。
まず海水の値を確かめるため、高知県海洋深層水研究所が公開する海水の分析データを見ると、一般的な海水の参考値としてマグネシウム1,280mg/kg、カルシウム412mg/kgが示されていました。次に日本地球化学会の幌延地域の化石海水に関する研究要旨では、化石海水を、地層が堆積したときに取り込まれた海水が、埋もれていく過程で変質した地下水と説明しています。さらに海底熱水系の研究要旨には、海水と岩石が反応する際に、海水からマグネシウムが取り除かれる例が紹介されていました。
資料と並べると、総湯さんのマグネシウムは海水の約70分の1、カルシウムは約3倍になっています。予想した「入れ替わり」に似た変化が、地下で起きたのかもしれないと思いました。神代温泉さんもマグネシウム63.8mg/kg、カルシウム581.6mg/kgと同じ傾向ですが、違いは総湯さんほど極端ではありません。もう一つ驚いたのは硫酸イオンです。海水の2,648mg/kgに対し、総湯さんは16.0mg/kg。海の面影を残しながら、中身はしっかり地下仕様に作り替えられた湯なのかなと感じました。
分析書の片隅で光る「よう化物イオン」の存在感
総湯さんの分析書で、よう化物イオンは6.2mg/kg。神代温泉さんは6.9mg/kgでした。数字としては小さく、湯船で何かを感じ取れる成分でもありません。それでも、陰イオン欄のこの一行がどうにも気になりました。海水に含まれるヨウ素はごく微量で、調べたところ1kgあたり0.06mg前後とされています。単純に比較すると、氷見の二つの湯には約100倍ものヨウ素が含まれていることになります。
海藻がヨウ素をため込むことはよく知られています。それなら、昔の海の生き物が海底に積もり、そこからヨウ素が湯に溶け出したのではないか。3つ目で見た「臭素がわずかに多い」ことも、同じ生き物由来の仕組みで説明できるのではないかと考えました。
調べてみると、日本地球惑星科学連合で発表されたヨウ素に富む地下流体の研究要旨には、地殻中のヨウ素の7割近くが海底堆積物に含まれていると書かれていました。房総半島では地下1,000〜2,000mからヨウ素の濃い鹹水(かんすい、塩分の濃い地下水)が産出し、新潟県や秋田県などにもヨウ素の多い温泉があるそうです。また、大学の研究紹介資料では、プランクトンや藻類はヨウ素濃度が高く、その死骸が積もることで海底堆積物にヨウ素が蓄積すると説明されていました。
予想していた「生き物由来」の筋書きが資料とつながり、思わず「よしっ!」と声が出ました。さらに環境省の温泉の定義を確認すると、よう化物イオンは1kg中1mg以上で温泉法上の条件を満たすとされています。氷見の二つの湯は、主役の塩分だけでなく、脇役のヨウ素でも温泉の条件に届いていることがわかりました。
| 区分 | よう化物イオンの基準 |
|---|---|
| 温泉法上の温泉の条件 | 1mg/kg以上 |
| 療養泉の成分基準 | 10mg/kg以上 |
メタホウ酸161mgが語る「天然ガス地帯の湯」との共通点
分析書の非解離成分の欄で、メタケイ酸より目立っていたのがメタホウ酸でした。総湯さんで161.1mg/kg、神代温泉さんで145.3mg/kg。メタホウ酸はホウ素を含む成分で、メタケイ酸がそれぞれ52.2mg/kgと31.7mg/kgであることを考えると、主役級の存在感があります。強塩泉の分析書を何枚も見てきましたが、この欄が三桁になる湯はそう多くない印象です。
海水にもホウ素は含まれています。日本地球化学会の研究要旨によると、その濃度は約4.5mg/kg。メタホウ酸に換算すると約18mg/kgとなり、総湯さんはその9倍近くです。ヨウ素と同じように、地下で何かがホウ素を加えたのではないか。房総のヨウ素の話を読んだばかりだったので、天然ガスと一緒に汲み上げられる「かん水」と似た性格の湯なのではないか、と想像が膨らみました。
地質調査所の地質ニュースに掲載された日本のホウ素資源と水溶型ホウ素鉱床を読むと、天然ガスやそれに伴う地下水を長年研究してきた筆者が、国内のかん水にホウ素資源としての可能性があると論じていました。戦中から戦後にかけて、北海道の豊富温泉では石油の試掘井から湧いたメタホウ酸を含むかん水から、ホウ酸を回収していたそうです。また、環境省の温泉の定義を見ると、メタホウ酸も温泉法上の条件となる成分の一つに挙げられていました。
資料と照らし合わせると、氷見の湯は、海水の塩分に加え、ヨウ素やホウ素を比較的多く含んでいる点で、天然ガス地帯のかん水とどこか似た顔つきをしているように思えました。湯口から立ち上る湯気を眺めながら、足元の深い地層の性格を一行ずつ読み解いていく。分析書の小さな欄が、地下の世界への入り口になってくれました。
pH7.25の「中性」と、同じ温泉郷に並ぶ弱アルカリ性の湯
総湯さんの湯は、肌をなでてもアルカリ性の湯のようなツルツル感はあまりありませんでした。代わりに、塩分が肌にまとわりつくような、しっとりとした重みを感じました。分析書のpHを見ると7.25で、泉質名の括弧には「中性」とあります。一方、事前に調べていた岩井戸温泉のうみあかりさんは、公式サイトの温泉紹介で「弱アルカリ性」に分類されていました。同じ氷見温泉郷の塩化物泉でも、pHの区分が違うのが面白いところです。
まず考えたのは、湯の性格の違いです。源泉ごとに汲み上げる深さや地層が違えば、炭酸水素イオンやカルシウムなどの成分のバランスも変わり、pHにも違いが現れるのではないか。もう一つ気になったのは、分析書にpHが二つ書かれていることでした。
環境省の鉱泉分析法指針では、湧出地でのpHによって、6以上7.5未満を中性、7.5以上8.5未満を弱アルカリ性と区分しています。総湯さんの分析書では、湧出地が7.25(61.0℃で測定)、試験室が7.28(24.8℃で測定)でした。
7.5という境目に近い7.25という数字を見ると、氷見の塩化物泉には、中性と弱アルカリ性の両方の個性があるのだと感じます。さらに、うみあかりさんの1号井は高張性、2号井は等張性と、浸透圧の分類まで違っていました。pHを調べていたはずなのに、いつの間にか等張性という別の沼まで見つけてしまいました。
| 源泉 | 液性・浸透圧 | 源泉温度 |
|---|---|---|
| 岩井戸温泉1号井 | 高張性・弱アルカリ性 | 56.8℃ |
| 岩井戸温泉2号井 | 等張性・弱アルカリ性 | 52.2℃ |
湧出地と試験室でpHがわずかに違うのも興味深いところ。温度の変化や、遊離二酸化炭素(総湯さんは64.9mg/kg)の動きなどが関係しているのでしょうか。次に湯めぐりをするときは、各宿の分析書を並べて、pHだけでなく浸透圧も書き込んだ「温泉郷の地図」を作ってみたいと思いました。
成分総計24g超の高張性泉、湯上がりの「ぽかぽか持続」を考える
総湯さんを出て、ひみ番屋街の足湯の横で富山湾を眺めました。海風に吹かれているのに、体の芯の温かさがなかなか引きませんでした。湯に浸かっていた時間はそれほど長くなかったのに、腕の表面には、乾いた塩がうっすら残っているような感触もありました。
これは湯の濃さと関係しているのかもしれないと思いました。分析書の成分総計は24,182.2mg/kg、つまり1kgあたり約24gです。一般的な海水の塩分濃度を約35g/kgとすると、成分全体の量はその7割ほど。肌に残るように感じた塩分も、この数字と無関係ではなさそうです。もしかすると、湯上がりの温かさにも何か関係があるのではないか、と想像しました。
環境省の鉱泉分析法指針では、溶存物質(ガス性のものを除く)が1kgあたり10g以上の湯を「高張性」と区分しています。総湯さんは24,117.3mg/kgで、基準の2倍を大きく超えています。神代温泉さんも18,977mg/kgで、同じく高張性です。また、All Aboutの総湯さんの紹介記事には、塩化物強塩泉ならではの湯冷めしにくさを感じたという利用者の声も紹介されていました。
| 分類 | 溶存物質(ガス性除く) |
|---|---|
| 低張性 | 8,000mg/kg未満 |
| 等張性 | 8,000以上10,000mg/kg未満 |
| 高張性 | 10,000mg/kg以上 |
予想と資料を重ねると、湯上がりの「ぽかぽか持続」は、あの濃い湯ならではの印象だったのかもしれないと思いました。ただ、実際にどの程度温かさが続くかは、湯温や入浴時間、その日の体調などによっても違うかもしれません。私は浴室の掲示を確認しながら、短めの入浴と休憩、こまめな水分補給を繰り返して楽しむようにしています。湯の濃さを分析書で確かめながら、自分に合った湯との付き合い方を探していく。それもまた、温泉めぐりの楽しみの一つだと感じました。
65.5℃から42℃へ、湯の冷まし方と黄土色の関係を考える
総湯さんの浴槽で湯口のそばに陣取り、注がれる湯をじっと眺めました。湯口の周りや湯が流れる縁に、鉄分を含む湯らしい色づきがないか目を凝らしながらです。ふと分析書を思い出すと、源泉は65.5℃、利用時の温度は42.0℃。館内の案内板には、地下から湧き出した源泉を適温まで自然に冷ましてから使っていると書かれていました。
20℃以上も温度を下げるには、どんな工夫をしているのか。どこかで湯をためたり、配管を通したりしながら、熱を逃がしているのかもしれません。その過程で湯が空気に触れているとすれば、1つ目で考えた鉄の酸化も進むのではないか。湧出地で淡黄色だった湯が、浴槽では黄土色になっている理由の一つが、この「冷ます過程」にあるのではないかと想像しました。
分析書を読み返すと、湧出量は毎分160リットルの動力揚湯(ポンプで汲み上げる方式)です。ジョルダンの施設情報によれば、総湯さんには炭酸風呂や寝湯など6種類の湯船があります。それぞれの浴槽で源泉がどのように使われているのかまでは分かりません。また、環境省の温泉法改正のあらましでは、加水や加温、循環などの利用状況を掲示する仕組みとともに、湧出量や揚湯方法、給排湯方式などを自主的に紹介する例も示されていました。
資料と照らし合わせると、総湯さんの案内板は、源泉名、掘削深度、温度、湧出量、色、冷まし方まで、丁寧に伝えてくれていることに気づきます。毎分160リットルの湯がどのような経路で浴槽へ届くのか、湯口ごとの温度や、縁からあふれる湯の様子を見比べるのも楽しそうです。冷ます過程そのものが湯の色に関わっているのだとしたら、湯口まわりの色づきは、この湯が歩んできた道のりの跡なのかもしれないと思いました。
神代温泉さんの完全かけ流し、46℃が43℃になるまでの短い旅
総湯さんとあわせて訪れた神代温泉さんは、氷見の市街地から高岡方面へ向かう内陸側にあります。脱衣所の分析書を読むと、源泉温度は46.0℃で、浴槽で使う時点の温度は43℃。その差はわずか3℃です。さらに訪問時の掲示を読み進めると、加水も加温もしておらず、循環もさせず、入浴剤や消毒も使っていないと書かれていました。
65.5℃から自然に冷ます総湯さんとは対照的に、こちらは源泉の温度がもともと入浴に近い湯です。冷ますための特別な工程を必要とせず、浴槽まで届けられているのではないか。そうだとすれば、鉄分を含む湯が湯口から出たばかりのときと、浴槽の端で少し時間がたったときでは、色の変わり方を目で追えるかもしれないと考えました。
分析書を読み返すと、鉄(Ⅱ)イオンは4.3mg/kgで、総湯さんの約1.8倍です。1つ目で紹介した大分県産業科学技術センターの資料の区分では、総湯さんより一段上の「4以上10未満」に入ります。また、富山県の公式観光サイトでも、加水・加温をせず、透明な源泉が空気に触れることで茶色いにごり湯になる様子が紹介されていました。環境省のリーフレットによれば、平成17年5月24日から、加水・加温・循環・入浴剤・消毒などを行う場合には、その旨と理由を掲示することが義務づけられています。
| 源泉 | 鉄(Ⅱ)イオン |
|---|---|
| 氷見温泉郷総湯 | 2.4mg/kg |
| 神代温泉 | 4.3mg/kg |
予想と資料を重ねると、源泉の温度を大きく変えずに注がれる湯だからこそ、湯口から浴槽へと広がる間の色の変化が、いっそう興味深く感じられました。分析書や利用状況の掲示は、法律に沿った決まりごとでありながら、湯が浴槽へ届くまでの道のりを想像する大切な手がかりにもなります。湯口の湯を手ですくい、浴槽の縁からあふれる湯と見比べる。完全かけ流しの湯だからこそ味わえる、贅沢な観察の時間でした。
火山のない氷見で、なぜ65℃の湯が?地下1,250mの温度を想像する
総湯さんの案内板には、平成23年12月に地下1,250mから湧き出したと書かれています。氷見の周りを見渡しても、湯けむりを上げる火山はありません。それなのに、湧出地で65.5℃もの熱い湯が出てくる。分析書を読みながら、この熱がどこから来ているのかが気になりました。
思い浮かんだのは「地下は深くなるほど温かくなる」という話です。火山がなくても、1,000mを超えて掘れば地球そのものの熱で湯が温まるのではないか。ただ、その割合で計算して65℃に届くのかどうか、確かめてみたくなりました。
産業技術総合研究所の「東京にどうして温泉があるの?」によると、火山のない地域でも地下には熱が伝わり、地温は100mあたり平均約3℃上昇するとされています。また、環境省の温泉資源の保護に関する資料では、火山活動とは関係なく地温によって温められた温泉を、非火山性温泉の深層地下水型と説明しています。古い海水が地層に閉じ込められ、地温で温められた化石水型という分類もありました。
実際に計算してみました。仮に地表の温度を15℃、100mごとの上昇を3℃とすると、地下1,250mでは約52.5℃になります。総湯さんの65.5℃は、それより約13℃も高い数字です。逆算すると、100mあたり約4℃の上昇に相当します。ただし、これは源泉温度と掘削深度から求めた単純計算で、実際の地下の温度分布を測ったものではありません。むしろ、この差はどこから生まれるのだろう、と新たな疑問が湧いてきました。
さらに、富山県の温泉資料では、岩井戸温泉などを地下500~800m、約30~60℃の化石海水タイプとして紹介しています。総湯さんは、それらより深い1,250mまで掘削され、源泉温度も高い湯です。火山が見当たらない土地でも、足元の地下には思った以上に熱い世界が広がっている。そう考えると、湯船の温かさがいっそう頼もしく感じられました。
「総湯」という名前と、湯上がりの寒ブリに見る北陸の湯文化
「氷見温泉郷 総湯」という名前を初めて見たとき、少し不思議な響きに感じました。各地の共同浴場は「共同湯」や「外湯」と呼ばれることが多いのに、なぜ「総湯」なのか。湯上がりにひみ番屋街を歩き、富山湾の魚が並ぶ店先を眺めながら、その名前がずっと頭に残っていました。
北陸の温泉地を思い返すと、石川県にも「総湯」と名のつく共同浴場がいくつかありました。もしかすると、町の中心にあって、誰もが利用できる湯を「総湯」と呼ぶ文化が北陸に根づいているのではないか。氷見の総湯さんも、その文化とどこかでつながっているのかもしれないと考えました。
調べてみると、加賀市の公式サイトには、「総湯」は共同浴場を意味し、地域の共有財産として大切にされてきたと説明されていました。また、山代温泉観光協会によると、山代温泉では総湯を中心に旅館や商店が並ぶ街並みを「湯の曲輪(ゆのがわ)」と呼び、北陸特有の言葉として受け継いでいるそうです。一方、氷見の総湯さんは、氷見漁港場外市場「ひみ番屋街」に隣接しています。
資料を読み進めると、「総湯」という名前には、単なる入浴施設以上の意味が込められているように感じました。山代温泉の総湯が旅館街の中心にあるのに対し、氷見の総湯は魚市場のすぐ隣にあります。湯の街ではなく、魚の街にある総湯。それが氷見らしさなのかもしれません。冬になれば、富山湾で水揚げされる寒ブリが食卓を彩り、農林水産省の郷土料理紹介にも、氷見のブリしゃぶが取り上げられています。なだうら温泉の磯波風さんも、ブリしゃぶ発祥の宿として紹介されることがあるほど、湯と魚の文化が身近な土地です。
海の成分をたっぷり含んだ湯に浸かり、同じ富山湾で育った魚をいただく。地下に眠る古い海の記憶をたどってきた今回の旅は、最後に目の前の海へと戻ってきました。氷見の湯めぐりは、湯船の中だけでは終わらない楽しみ方ができる温泉郷なのだと思いました。
| 項目 | 氷見温泉郷 総湯 | 神代温泉 |
|---|---|---|
| 泉質 | ナトリウム-塩化物強塩泉(高張性・中性・高温泉) | ナトリウム-塩化物強塩温泉(高張性・中性・高温泉) |
| 源泉温度/利用時の温度 | 65.5℃/42.0℃ | 46.0℃/43℃ |
| pH | 7.25 | 記載なし(泉質名は中性) |
| 成分総計 | 24,182mg/kg | 18,990mg/kg |
| 鉄(Ⅱ)イオン | 2.4mg | 4.3mg |
| 湯使い | 自然冷却(案内板より) | 加水・加温・循環・入浴剤なし |
※数値は訪問時に確認した温泉分析書に基づきます。湯使いについては現地の案内板・掲示を参照しており、現在の利用状況とは異なる場合があります



千年の海を想い、黄金色の湯に浸かり、今日の海の幸をいただく。
次の休みは、氷見温泉郷で「時を超えた海の物語」に出会いませんか?
- 泉質で楽しむ氷見の個性
-
氷見温泉郷には、ナトリウム-塩化物強塩泉をはじめ、個性豊かな源泉があります。総湯と神代温泉では成分総計や源泉温度が異なり、同じ塩化物泉でも湯の色や香りに違いが見られます。温泉分析書を見比べるほど、それぞれの湯が持つ特徴が浮かび上がってきます。
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氷見温泉郷 総湯の成分総計は約24g/kg。塩化物イオンを豊富に含み、濃厚な湯が特徴です。富山県の資料では、周辺に化石海水と関係する温泉も紹介されています。海に面した土地の地下に、どのような水の歴史が眠っているのか。湯の成分から想像が広がります。
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総湯と神代温泉の分析書には、よう化物イオンやメタホウ酸など、塩分以外にも興味深い成分が並びます。特にメタホウ酸は両源泉とも100mg/kgを超える数値。地下の地層や水の成り立ちに思いを巡らせながら、温泉分析書を読み解く楽しさがあります。
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温泉マニアあるある! – 氷見温泉郷考察編



マニアの人はこうなっちゃう…かも!?
- 黄土色の湯を見て事件現場のように騒ぐ
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総湯の黄土色の湯を見るなり、「おぉ、これは何かが起きている!」と興奮するマニア。友達が「普通に温泉じゃん」と返しても、「鉄が空気に触れたのかもしれない」と分析を始めます。湯船を眺めながら、見えない化学反応を勝手に実況。本人にとっては、温泉が天然の実験室に見えているようです。
- 塩素と臭素の比率に妙な親近感を覚える
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分析書に並ぶ塩化物イオンと臭化物イオンの数値を見て、「おっ、比率が海水に近いぞ!」とニヤリ。友達が「それで何がわかるの?」と聞くと、「まだ何もわからない」と元気よく答えます。わからないことが増えたのに、なぜか満足そう。温泉マニアにとって、疑問は減らすものではなく増やすものなのかもしれません。
- マグネシウムの少なさに食いつく
-
総湯の分析書を見ながら、「カルシウムが多いのに、マグネシウムは少ないな……」と考え込むマニア。友達が「どっちもミネラルでしょ?」と聞くと、「そこが面白いんだよ」と急に目を輝かせます。海水との成分の違いを調べ始め、気づけば旅行中なのに地球化学の資料を読んでいます。
- よう化物イオンを見つけてドヤ顔になる
-
分析書の片隅に「よう化物イオン6.2mg/kg」を発見したマニア。「ふふふ、ここにもヨウ素がいるぞ」とドヤ顔。友達が「ヨウ素って何?」と聞くと、「まず温泉法と鉱泉分析法指針の話から……」と語り始めます。「いや、そこまでは聞いてない!」と止められても、本人はまだ導入部分のつもりです。
- メタホウ酸で天然ガスの話を始める
-
総湯のメタホウ酸161.1mg/kgを見て、「おぉ、これは興味深い!」と身を乗り出すマニア。友達が「何がすごいの?」と聞くと、「天然ガス地帯の温泉にも似た特徴があってね……」と突然話が飛びます。「ここでガスが出るの?」と聞き返され、「いや、それは別の話」と慌てて訂正。想像だけは地下深くまで進んでいます。
- 源泉の冷まし方が気になって仕方ない
-
総湯の源泉温度65.5℃を確認し、「これをどうやって42℃まで冷ましているんだろう」と考え込むマニア。現地の自然冷却という案内を見ても、「空気に触れる時間で湯の色も変わるのかな……」と疑問が止まりません。友達は早く温泉に入りたいのに、本人は湯が浴槽へ届くまでの旅を想像しています。
- 神代温泉の湯口から離れられない
-
神代温泉で赤褐色の湯を眺めながら、「源泉は46℃で、浴槽は43℃か……」とつぶやくマニア。湯口の周囲や湯の流れをじっと観察し、「この3℃の間に何があったんだろう」と真剣な表情。友達が「3℃くらい、冷めただけじゃない?」と言っても、「その冷め方が興味深いわけだよ」と譲りません。
- 地温勾配を暗算し始める
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総湯の源泉が地下1,250mから汲み上げられていると知り、「一般的な地温勾配なら……」と突然計算を始めるマニア。友達が「温泉に来てまで算数?」と呆れても、「地下の温度を想像すると面白いんだよ」と夢中です。計算結果と実際の源泉温度を比べては首をかしげ、ついには地下の温度まで旅の思い出に加えてしまいます。
- 総湯という名前に感動する
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「総湯」という名前を見て、「北陸の共同浴場文化って、いいよなぁ……」としみじみするマニア。友達が「温泉の名前で感動するの?」と笑っても、「名前には土地の歴史が感じられるんだよ」と語り始めます。ところが湯上がりに寒ブリの話を聞いた途端、「文化の研究はあとで!」と魚市場へ一直線。学問より食欲が勝つこともあるようです。
- 等張性をアイソトニックと呼びたがる
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氷見の温泉を調べていて、「マジか。等張性の源泉もあるじゃん……」とつぶやくマニア。友達が「等張性?」と聞くと、「要するにアイソトニックね」と、まったく要していない回答をします。まわりからは”湯めぐりアイソトニック”とあだ名されてしまうのです。



管理人いじりですね…
そう呼ばれるのも悪くない!







